第12回(最終回):鮪蔵との甘い日々、これから
出会いから溺愛へ、親バカへの軌跡全記録 by shibizou
こうして鮪蔵との安住の地を手に入れた私であったが、機械式駐車場というのはなかなか難しいものであると実感する日々でもある。
まず、平置きならあり得ない「出庫待ち」にブチ当たってしまうのだ。うちの駐車場は、パレットを呼び出してから出てくるまでに余裕で5分くらいの時間がかかる。タイミングが良ければいいのだが、駐車場に行った途端に別の住人が操作板に今まさにキーを差し込んでパレットの番号を打ち込んでます、という瞬間によく遭遇する。そこは集合住宅に住む宿命で、笑顔で「ごゆっくりどうぞ」と待っていなければならない訳だが、この待ち時間がとてつもなく長く感じる。
そして、前回もちらっと書いた通り、車を車庫から出して路上に出るまでにまた時間がかかる。
そして高速に乗ろうとすると、バカナビは何処が目的地であろうと、必ず同じ入り口に行けと指示を出してくる。ムカつくが、私はまだまだ残念ながらこの辺の道路事情に詳しくない。なので、毎度おとなしくナビの言う事に従わざるをえない。
それでもめげずに私と鮪蔵は、新しいお散歩スポットを探す日々を送っている。
と言いつつ、今一番お気に入りの散歩コースは首都高だったりする。
前より住処が都心に近くなったせいもあって首都高に乗る機会が増えたのだが、以前は「狭い怖い絶対乗りたくない!」と思っていた道なのに、一度乗ったらこれが楽しくて楽しくて仕方ない。
思えばそうだ、まだアメリカにいた頃、一時帰国して空港からタクシーでホテルに向かう時に乗る度に「いつかは鮪蔵と走ろう」と怖々ながら決意していた約束を、今の住処に引っ越してやっと果たした事になる。
昼でも夜でも楽しい。ボストンにはあり得ない遊園地の様な街並の中を、私と鮪蔵は、一緒にジェットコースターに乗っているかのような気持ちで通り抜ける。景色はちょっと違うけど、ボストンのストロードライブを思い出させる曲がりくねった狭い道でもある。
自然を堪能したい時は、茨城まで足を伸ばす。偶然見つけた小高い山からの景色がとてつもなく良い。対向車も後続車もまず殆ど無いので、途中途中鮪蔵を止めながら写真を撮りながらのドライブが出来る。直近の写真ではないが、この景色に巡り会った時、私は、鮪蔵を日本に連れて来て良かったと心から思った。
マサチューセッツも、ニューイングランドもそれは素晴らしい景観が沢山ある所ではあったが、日本には日本の美しさがある。道が狭いからこそ、木の枝に触れながらのドライブも出来るし、木の枝のトンネルをくぐり抜ける事も出来るし、車体と花がこすれたりすることもある。
鮪蔵に寿命が来るまで、あとどのくらい日本のあちこちに連れて行けるのだろうかと思いあぐねる。
せっかく連れて来たのだから、鮪蔵が日本に来て良かったと思える生涯を送って欲しいのだ。
今は、私の仕事の関係で、その時間の殆どを駐車場の中で過ごす生活を強いてしまっているが、その分を週末に取りかえす。
そして、この連載中の10月5日、鮪蔵は5歳の誕生日を迎えた。
5周年だし、ということで、私は鮪蔵へのお誕生日プレゼントとして全塗装をかけた。
もちろんその間、鮪蔵とのドライブはおあずけだった。部屋に帰って来ても真下に鮪蔵がいないという生活はとても寂しかった。しかし、5年という年月、そのうち10か月は屋外駐車を強いたせいで痛んでしまった鮪蔵が美人に戻る為なら、と、耐えた。
塗装が終わったのは10月15日だった。
カーショップの人は納車してくれると言っていたが、敢えて私は鮪蔵を迎えに行った。そうしたら、ショップのガレージの一番目に付く所で鮪蔵はちんまりと私を待っていた。ぐるりと360度、鮪蔵の周りを歩いた。特徴になっていたリアバンパーの傷も、駐車がヘタなせいでこすってしまった左フロントドアのバンパーも、左リアドアの凹みも綺麗に直っていた。新車同然に生まれ変わっていた。
嬉しくて飛び上がる程だったが、あいにく、その帰り道は夜でしかも視界がとても悪くなるほど強い雨の日だった。塗装したての鮪蔵をこんな天気の中連れて帰るのは嫌だったが、だからと言って天気が良くなる日を待って引き取るなんて寂しい事はしたくなかったので、その日に連れて帰った。
が、ここでまたバカナビが活躍してくれた。都内を走っていれば家に到着するはずなのに、気が付いたら埼玉まで行っていたのだ。あり得ない。しかも視野はどんどん悪くなっていく。塗装をかけてもらっている間のブランクを考えると危険なドライブだったが、何とか頑張って家にたどり着いた。
そして、久々に鮪蔵は自分の家に戻った。もちろん一度で私がパレットに収められる訳がなく何度も切り返したが。
シャッターを降ろす瞬間がとてつもなく侘びしい。この寂しさは何度やっても慣れない。シャッターが降りきるまで私は鮪蔵に手を振る。その光景を目撃されたらきっと変な人だと思われるだろうが、私は構わない。そのくらい鮪蔵が好きでたまらないのだ。
シャッターが降りてもなかなか駐車場を離れられないのが現状だったりするのだが、涙を飲んでいつもその場を離れる。その場を離れても、鮪蔵は私の部屋の真下まで、すぐ近くまで来てくれるのだからいいのだ。視覚的に確認出来なくても、この床のすぐ下に鮪蔵がいる、そう思うだけでとてつもなく暖かな気持ちになれる。
ひとつ残念なのは、鮪蔵がいるパレットが、リビング側ではなくキッチンやバスなどの水回り側にあることだ。故に、平日に鮪蔵と一番近くにいれるのはお風呂の時だったりする。湯船に浸かりながら下の方に向かって「鮪蔵〜」と手を振る私はきっと変だろう。でも、それでもいいのだ。
これからずっと、お互いどちらかの寿命が来るまで私たちは一緒だ。他のライターの方達の運転歴、車歴に圧倒されながらの連載だったが、私は、鮪蔵の最初で最後のオーナーとなり、そして、鮪蔵が最初で最後の車だと決めている。他の車では、同じシビックでもダメなのだ。鮪蔵でなければ私は嫌なのだ。
この親バカ連載を最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
そして編集部の皆様、この素晴らしい機会を与えて下さって、ありがとうございました。
銀の左ハンドルのシビックと何処かですれ違ったら、確実にそれは私と鮪蔵です。どうか、暖かく見守ってやって下さい。
text by shibizou | 2005.11.24 | [ 出会いから溺愛へ、親バカへの軌跡全記録 ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
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コメント
鮪蔵、幸せ者ですね~。
そこまで愛されるなんて、うらやましい(笑)。
にしても鮪蔵の上に生活する楽しさ、思いもよりませんでした。お風呂から手を振るなんてロマンチックですね。
そう思うと、我が家のサーフ(名無し)、とても可哀想です。北に山道で酷使され、娘にブッツケられ、鳥に糞をかけられて(木の下に置いてるので)。
今度、洗車してあげよう。年に一度じゃ、まずいかも。
鮪蔵の続編、また読ませて下さい。楽しみに待ってます。
投稿者: 北 (Nov 27, 2005 3:26:25 PM)
>北さん
偉大な先輩に最後まで目を通して頂いて、ありがたい限りです。
北さんちのサーフは、あれだけ自然を堪能出来てむしろ幸せだと思います。しかも木陰が住処なんて、うちの鮪蔵の方が羨ましがると思います。
投稿者: shibizou (Nov 28, 2005 9:41:54 PM)