メインコンテンツまでスキップします
アット・ニフティロゴ Car@nifty

コンパクトカー、ミニバン、ワンボックス、セダン...今欲しい車の新車・中古車情報満載の自動車サイト

Car@niftyトップ > オーナーズクラブ > 風が吹くと車が壊れる [ 北さん ]
オーナーズクラブ

June 02, 2005

第15回(最終回):風が吹くと・・・リタイア

風が吹くと車が壊れる by 北

 脱出したと思っていたネマの谷、長野号は、まだその中にいたようです。

kita1501 夜空の下、長く大きな崖が黒いシルエットになって遠くに連なっています。その姿を追いかけて走りたいのですが、時折吹くハルマッタンの風が砂塵が舞い上げ、崖のシルエットを隠してしまいます。その崖のどこかにネマの谷を脱出するためのワジ(枯川)が潜んでいるはず。でも25Km先のこと、まだ、ここからでは分りません。

 それにしても、なぜ多くのラリーカーがここでミスコースしているのか不思議です。大型のカミオンが左から右へ、また戻ってきて右から左へ。それにつられるようにラリーカーも色々な方向からこのポイントへやってきては、意外な方向へと向かっていきます。まるで、すべてのドライバーが夢の中をさまよい、方向を失っているようです。

 午前100、長野号もコマ地図の指示に従ってCAP(方位)350に向かって走り始めました。ワダチをトレースするのですが、すぐに分かれてしまいます。さらには、ハルマッタンの風に吹かれてパウダー状の砂が飛んでしまい、ワダチが無くなってしまいました。

 進むこと数キロ、大きな谷に出くわしました。行き止まりです。

「エッ! 何だ・・・こんな谷、コマ地図に載ってないぞ」

「コリャー皆が迷ってしまうはずだ・・・どうする?」

「しょうがない、戻るしかないな」

 パリダカのような長距離ラリーでミスコースしたら、確実に分っている場所まで戻るのが鉄則です。山勘で新しいルートを見つけようとしても、夜間ではなかなか成功しません。無線中継所まで引き返すのですが、他のラリーカーもまったく同じ事をやっています。

 再度アタックです。今度もCAP(方位)350。でも違うワダチを追い掛けることにしました。走ること数キロ、やはり谷に面してしまいますが、今回は無線中継所には戻りません。その谷に沿って東に進路を取ったのです。大きく進路を変更しながらルートを見つけるのは、かなり難しいことです。走行距離が変わってくるので、コマ地図の指示が読み込めなくなってしまいます。

「クソー、何て場所だ。まるでコマ地図と違ってるじゃないか」

「・・・」

「どうした菊ちゃん」

ウン?・・・ゴメン、寝てしまった」

「・・・」

 ダカールまで後2日。疲労が蓄積しているところに、砂丘の尾根を飛んだり、スタックを引き上げたりで、疲れと眠気が最高潮に達しています。さらに時間も夜中の200になってしまい、もうヨレヨレです。朝6時までにティジカジャへゴールできなければリタイアですが、ティジカジャまで、まだ200Kmもあります。時速100Km/hではゴールにギリギリでしょうから、ここでの残り時間は1時間程度。遅くとも午前4時までにネマの谷を脱出しなければなりません。疲れと眠気に焦りが加わり、次第に判断力が失われていきます。

kita1502 暗い谷の奥からバォ――っと風が吹き上がり、赤い砂塵が渦を巻きながら長野号を包んでしまいました。前が見えません。急停車!

「クッソー、今まで風はなかったのに、なぜだ!」

「もう時間がない!」

 ナビコンに刻まれる赤いデジタル表示だけが、ポツンポツンと時を加えていきます。

「ワジまで10KmCAP350!」

「でも、CAP350は谷だ。ここを降りるのか」

「そんな指示はない!」

「バカヤロ―!」

 焦りで半分パニックです。時折、見え隠れする黒い崖に向かって進みたいのですが、谷に進路を阻まれて動きが取れません。残る時間はもう30分。それまでに、この地「悪魔が住むというネマの谷」を脱出できなければリタイアになってしまうのです。

 ズルをしてサハラ砂漠を迂回してきたのに・・・。マドンナを置き去りしてしまったのに・・・。そうした思いが悔しさと焦りと共に胸の奥から湧き上がってきます。

――風が吹くと・・・リタイア

 ネマの悪魔は、ハルマッタンの風に姿を変え、長野号を砂塵の中に閉じ込めてしまったようです。

「時間だ! タイムアウトだ!」

「クソッ、もう少し、もう少し進んでみよう!」

 用心しながら進んでいた長野号、危険を覚悟で一気にスピードを上げた、その時です。見えない岩にガツンと乗り上げてしまいました。ネマの谷、脱出に失敗です。

ヘッドライトは付きっぱなし、エンジンも緩やかなアイドリングの音を唸らせたままになっています。ナビコンの赤いデジタル時計だけが進む中、二人は、前傾姿勢でシートベルトにもたれかかり、頭をがっくりと下にうなだれて諦めと悔しさの眠りへと落ち込んでいったのでした。

kita1503太陽のキラッと輝く光を受け、目が醒めました。谷全体が明るく朝日に照らされ、長く続く崖の行く手に1本の細い割れ目が見えます。ワジ(枯川)です。

「・・・ワジ、あそこにあったんだ」

「見えなかった・・・」

 昼間だと何でもないルート、夜の闇とハルマッタンがすべてを覆い隠し、行く手を遮っていたのです。

 何もなかったような朝、広大な砂漠に長野号は、ポツンと取り残されてしまいました。私達の20Km後ろの砂丘には、マドンナとジョルジョが残されています。そして、この悪魔の住むというネマの谷で多くのラリーカーが失意の朝を向かえたのでした。

パリダカ・・・その後

リタイアの後、ティジカジャで待っていた長野2号と合流し、ダカールへと向かいました。無念のリタイアですが、気楽な二人、気分は一気に観光客に変身です。ダカールまで無事に辿りつきましたし、何しろ面白かった。パリダカ、やっぱり究極の冒険パックツアーですね。

 ダカールから家内に電話です。

「アハハ・・・リタイアしてしまったぞ」

「フフフッ・・・知ってたわ。テレビでやってたから。額は大丈夫? 映像でテープ張ってたけど」

「アア、かすり傷だよ」

「そう・・・それじゃ、ダカールとパリで、余計なことしないで早く帰ってくるのよ。待ってるから」

「余計なこと?」

「そう、真面目に帰ってきてね」

 ということで、私、いたって真面目に帰国して、砂漠にはなかった湿度十分な、甘くロマンチックな日本の夜を過ごすことになったのでありました。

パリダカ・・・3ヵ月後

 体力、気力共に充実する中、仕事に没頭していたある日、家内が微笑みながら呟きました。

「ネエ、できたわよ」

「オウ、夕食か・・・さあ食べよう」

「・・・まったくゥ・・・赤ちゃんよ」

「エッ! 本当に・・・」

「そう、パリダカのお土産みたい」

そうか・・・あの時の・・・となってしまたのでした。

パリダカ・・・6ヵ月後

家内が順調に子供をお腹の中で育んでいた夏、一本の電話がありました。

「北さんですか? カシオ広報部ですが・・・」

 話の内容は、次回のパリダカにカシオチームのドライバーで参加しませんか、という誘いです。ビックリしながら菊チャンに連絡します。

「パリダカは、一回行けば十分だって思ってたけれど、どうする、もう一度行く?」

「だよなー、リタイアで終わるってのも癪だよね」

 ってことで、とりあえず次回のパリダカ参戦の話を進めながら、それとなく次のパリダカを家内に打ち明けることにしたのです。

「エッ! また行くの!・・・今回はやめて、赤ちゃんが生まれるのよ」

「ウムー・・・でもね、リタイアで終わるの、残念だと思わない? 人生一度だし」

なんて、理由にもならない説得をやんわりと続けたのですが、結局、家内のお母さんの協力をもらって再出場ってことになりました。そして・・・。

パリダカ・・・10ヶ月と10日後

kita1504 第13回パリダカ・ラリーの出発直前、パリのホテルにいた私に家内から電話が入りました。

「あなた、生まれましたよ。男の子」

「そうかー、よくやった! ありがとう」

「ところであなた、1週間以内に名前を役所に届けなくちゃいけないのよ。それ、よろしくね」

――まずい・・・仕返しがやってきた。

「エッ? だって、今から砂漠に行くんだけど・・・」

「私は、きちんと子供を生みました。次は、あなたの仕事です。名前決めたら連絡してね」

「砂漠に公衆電話あるかなー?」

 ということで、今回のパリダカ、砂漠の途中で公衆電話を探すことになってしまったのです。菊ちゃん、呆れた様子で笑っています。

 スタートして1週間、前回はズルで迂回したサハラ砂漠のど真ん中、ゴソロロに到着です。そこがその日のゴール、やや岩場交じりの砂丘でキャンプをします。そしてゴソロロ、ここから日本へ国際電話を試みることになっていたのです。実はTVの取材チームがパリダカを衛星放送していたのですが、TV回線を使用しない夜間、その回線を電話に繋いでくれるというのです。感謝。

 砂の上、ジュラルミンケースに電話が置かれ、その横に小さな携帯用のパラボラアンテナが南の空へ向かって広げられています。TVスタッフが難しそうな機械を操作し始めて数分、指を丸めてOKマークが出されました。いよいよ約束の電話です。

 衛星回線が開きます。

「ルルル、ルルル、・・・はい、北です」

とても鮮明な家内の声です。時間差も生じていません。

「もしもし、私です。約束の電話ですよ」

「あ・・・あなた! どこにいるの」

「サハラ砂漠のど真ん中」

「エー・・・どうやって電話してるの?」

 サハラ砂漠の夜、パラボラアンテナの向けられた空には満点の星が輝いています。その空に浮かぶ小さな星の一つから家内の声が聞こえてくるのです。彼女の陽気な話し声に頷きながら星空を眺めていると、優しいハルマッタンの風が私の頬を撫でるように吹き過ぎていきました。

「ありがとう」 そう電話に答えると、・・・不覚にも涙を一粒、砂漠に落としてしまいました。

 

kita1505 その年は、パリダカを完走です。

 

 砂漠脱出の物語、2年越しのゴールとなってしまいましたが、お付き合いいただき有難うございました。身近な車のトラブルをレポートする予定でしたが、砂漠に入り込んでからは、物語を脱出するのが難しくなってしまいました。自然の中って、それだけ魅力的なのかもしれませんね。森や海へ、皆様も楽しいカーライフを。 (北)

text by 北 | 2005.06.02 | [ 風が吹くと車が壊れる ] | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

May 25, 2005

第14回:ラリーカー、空を飛ぶ

風が吹くと車が壊れる by 北

前回に引き続き、パリダカ最大の混乱、悪魔が住むというネマの谷の物語をお送りします。

 ボンネットに足を乗せて屋根に座ってタバコを吸うこと、もう何回もやりました。出発前に二人で話し合っていたのです。もしミスコースしそうになったり、トラブルに巻き込まれたら、まず高い所に車を止めて、運転をやめよう。そしてタバコを吸う5分間で状況を把握し、作戦を作ろうって。

 リビア砂漠でミスコースしそうになった時も、タバコを咥えて屋根の上にレッサーパンダのように立ち上がって遠くを眺め、かすかに昇る砂煙を見つけて難を脱しました。

「何やってんの、長野号」って言われてしまいそうですが、20日を超える長期ラリー、この5分間の休憩が何度も私達をミスから救ってくれたのです。

 kita1401今回のネマの谷、同じように屋根に座ってタバコを吸いながら菊ちゃんと話し合います。

「谷に下りていくとスタックの中に入り込んで脱出できなくなるな」

「そう、でも他にルートはないし」

「・・・」

「空を飛べるといいのにな」

なんて夢みたいな事を言いながら、二人、砂丘の上の尾根を見上げました。

砂丘では、ボーっとしていると、車、下へ向かって落ちていこうとします。そして一旦穴の中に入ってしまうとフカフカの砂に足を取られ、脱出する事が難しくなってしまうので、危ない時には、どの方向へも展開できる砂丘の上へ位置していたほうが有利なのです。

 今回、もし砂丘の尾根まで登ることができれば、尾根沿いに走ってネマの谷をやり過ごすことが可能かもしれません。でも、その尾根にたどり着くには、今までと同じくらいの高さを登らなくてはなりませんし、きっと何度もスタックをすることになるでしょう。

 二人はジッと砂丘の上を見上げています。

「飛んでみる?」

「そう、飛んでみようか」

二人はニッコリ笑うと、進路とはまるっきり方向の違う砂丘を登り始めたのでした。しかし角度が急で、すぐにスタック。サンドラダーを敷いてガガーっと登るのですが、またスタック。その繰り返しです。

 こうなると、一人は完全に車の外に出て長野号と一緒に歩いていく事になります。

「ゼイゼイ・・・もうだめだ。体がもたん・・・水!」

「よし、交代だ」

 運転を交代して、また登り続けます。

「ハーハー・・・水、水をくれ!」

kita1402 これじゃ華麗なパリダカではありません。まるでジャングルを走るキャメルトロフィーです。(写真はサンドラダ―を使ってクリークを渡るキャメルトロフィー)

 無理やり長野号を砂丘の上へ引き上げること、小1時間。やっと尾根に到着です。

「ゼイゼイ・・・やったね」

「ハーハー・・・ここから・・・飛ぶぞ」

 下を見ると谷の中で20台以上のラリーカーが、ヘッドライトをあちこちに照らしながらスタックしています。もし、うまく砂丘の尾根を走り抜ける事ができれば、下から見上げる長野号、空を飛んでるように見えるはずです。

 失敗すれば、途中で尾根を外れて谷へ落ちていくかもしれません。そうなれば、ゴロゴロと横転ですから、きつくシートベルトを引き締めなおします。

「行くぞ」

「よし、発進!」

 普段はボロボロボロ・・・カックンと走っている長野号、ここだけは本物のラリーカーになってもらわなくては困ります。プジョーやパジェロと同じように、バォ――ンというハイテンションなエグゾースト音を発てて、一気に砂丘の尾根を走り始めました。

「空を見ろ!・・・鳥だ、飛行機だ、いや・・・スーパー長野号!」(チョッと古すぎかな) てな感じでブンブンに尾根を走り抜けるのですが、谷の中、皆は足元ばかり見ていて長野号に気が付いてないようです。

「危ない、右だ!・・・行きすぎ、左だ!」

 なんて叫びながら一気に谷間の20台をゴボウ抜き。

「よっしゃー、うまく行ってるぞ!走れ!飛べ!」

 時々軽くジャンプし、砂を右や左に蹴りながら砂丘の尾根を走り抜けようとしたその時、考えていませんでした、今回のエンディング方法。砂丘の尾根が終わってしまい、急激に次の谷へ転落です。

「アレー! 前転するぞー」

「ヤバイ、止まれ!」

ドッシ――ン

kita1403 長野号、強い衝撃を受けて次の谷へ墜落するようにハードランディングです。飛行には成功したのですが、着陸に失敗です。

 でも、ここまで来れば大丈夫。一番難しい悪魔の谷を越えたので、そこからは大して難しいルートはなさそうです。どうにか蟻地獄を脱出してきた他のラリーカーも、急々とスピードを上げて走り抜けて行きます。

 ヤレヤレと思いながら、正規のルートへ向かって進み始めると、一台のラリーカーがボンネットを開けて止まっていました。ヘッドライトに映った姿は、パステルグレーに白とピンク。

「ジョルジョとマドンナだ」

 急停車です。エンジンルームにジョルジョが頭を突っ込んでいます。

「どうした、ジョルジョ!」

 ところが、エンジンルームからフッと振り返ったのは、ジョルジョではなくマドンナだったのです。

「エッ・・・マドンナ? ジョルジョは?」

「ジョルジョ、ネマの谷で力を出しきってエグゾーストしてしまったの。そして車は故障。水ある?」

 見ると、助手席でジョルジョがボーっと遠い目線になっています。ネマの谷を一人で脱出させ、力尽きたのかもしれません。脱水症を起しているようです。

「水はどうしたの?」

「緊急用の水まで飲みきったの」

 急いで私達の水をジョルジョに渡します。すると一気に水を飲んでしまいそうです。

「待て、全部飲むんじゃない」

 あわててボトルを奪うように取り上げ、残り少なくなってしまった水をマドンナに渡します

Kitta、お願い。車を見てくれない。燃料がエンジンまで行ってないみたいなの」

 私達、メカニックは素人です。でもエンジンを見回すと原因が分りました。直噴ガソリンエンジンのフュ―ル・インジェクションのパイプが変形し割れているのです。この部分、圧力を受けているのでガムテープっていう訳にはいきません。パイプを取り替えるしか方法はなさそうです。

「ごめんマドンナ。この修理、無理だ。部品もないし。サポートカミオンが来るまで待つしかない」

「でも、ここはミスコースの場所よ。カミオン来るかしら」

「・・・」

マドンナの顔は砂に汚れ、まつ毛にも砂埃が白く付いています。美しい瞳に疲れが蓄積しているが分るのですが、ダカールまで後2日、すべての参加者が同じような疲れの中で走り続けています。私達もヘトヘトです。

マドンナが、思い出すような口調で言いました。

「ジョルジョが言ってたわ。キャメルトロフィーに出た男は裏切らない。トラブルがあれば、どんな状況でも皆で解決しようとするんだって」

砂に反射したヘッドライトがマドンナの顔を横から照らし、微かに光る瞳が私達を見つめています。

チームスピリット。約束の言葉だったはずなのに・・・。疲れきった体が砂のようにさらさらと流れ、砂漠の中に吸い込まれていくようです。

長く感じた沈黙の後、マドンナが低い声でゆっくりと呟きました。

「お願い・・・私達を・・・助けて」

 彼女の小さな囁きが波紋のように、疲れた体と心の中に広がります。

時間はほとんど残されていないのですが、もう少しやってみよう。そう思って足を一歩踏み出そうとした瞬間、菊ちゃんが私の袖を軽く摘んだのです。

 横を向くと、菊ちゃんは穏やかな顔をしていました。でも目は、「行こうよ」と現実を訴えています。「悪い菊ちゃん。もう10分だけ、ジョルジョとマドンナに・・・」と言おうとした時でした。

「フフフッ」っとマドンナが微笑んだのです。

「ちょっと試してみただけよ、あなた達がどんな男なのか。・・・よく分ったわ。さあ、行って、早く行って! そうしないと、あなた達もリタイヤするわ」

赤い砂丘の上には無数の星が輝いています。ネマの谷には悪魔がいる、と誰が言ったのでしょう。

 私達は緊急用の水を半分、マドンナとジョルジョのために残し、手を一度だけ握りしめて長野号を発進させたのでした。

谷を抜け、台地に出てきました。砂丘はなくなり土漠です。1本の大きなバオバブの木に遭遇し、その先に無線通信所がありました。

「やったぞ・・・正規のルートに戻った」

コマ地図を見ると、バオバブの先に通信施設と書いてあります。そこからカップ(方位)350の北上です。そして目指すは、さらなる台地の上へ向けてネマの谷?を抜けるワジ(枯川)まで25Kmと指示されています。ワジというのは雨が降ると川になる部分なのですが、普段は細い谷間になっているだけ。路面が土漠とは違い、白いパウダー状になっていたりで、意外と走りにくい場所です。

kita1404 そのワジを目指して通信施設の横を通過したのですが、何だか変です。ワダチがぐちゃぐちゃになっていますし、消えてる部分もあります。とその時、前方からヘッドライトを煌々とつけたカミオンが数台、爆音を発ててこちらに向かって戻ってきました。

「何だー。逆走してきたぞ」

「ゲー・・・また、ミスコースだ。コースが分らなくって戻って来んだ」

 すると今度は、東からラリーカーが連続して走ってきました。完全に方向を失っています。

「もしかして、さっきの砂丘の谷はネマの谷じゃなくて、ここいら全体がネマの谷じゃないのか」

「きっとそうだ、俺達まだネマの谷から脱出してないんだよ。悪魔が・・・」

 

 突然、ハルマッタンの風がファーと吹きつけ、砂塵を舞い上げたのでした。  (続く)

text by 北 | 2005.05.25 | [ 風が吹くと車が壊れる ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)

May 19, 2005

第13回:パリダカのマドンナ

風が吹くと車が壊れる by 北

 第12回パリダカ、中間地点アガデスで1日の休息です。

 車を修理し、十分な食事と睡眠を取るのですが、なにより嬉しいのはシャワーを浴びれること。アフリカに入って10日近くもシャワーを浴びていないので、髪の毛はガチガチ、皮膚は垢まみれ。でも、下着と靴下は毎日交換していますし、乾燥した地域なので匂いはそれ程・・・(汚い話で失礼)。 その下着、洗濯しながらラリーを走るわけにはいきませんから、すべて使い捨てです。家にあった下着をすべて動員して20組も持参しました。

 久しぶりにシャワーを浴びると、皮膚がヒリヒリするんですね。そんな一皮むけた肌を爽やかな砂漠の風にそよがせながら、やっと手に入れた少々ぬるいビールをグビってやると、昨夜の緊張も忘れてしまい、まさに天国。

「死ぬー」「ヤベー」なんて騒いでいたのは誰? って感じです。

 kita1301

 アガデスに着くと、まずは地元の若者や子供達に囲まれてリクルート攻めに合ってしまいます。彼らにとってパリダカは年に一度のお祭りですし、同時に現金収入を得る大きなチャンスです。

 英語が話せるから通訳にどうだ(長野2号が既にお願いしていました)。巨漢が3人やってきて、駐車しているラリーカーの警備をしてやろう、でないと子供達に悪さされるぞ(断ると何が起きるか分らないので、彼らにもお願いすることにしました)。さらに子供達が10人程で修理を手伝いたいとのこと。他のチームから声が掛かります。

「やめとけ、工具がなくなるぞ」

それを聞いた菊ちゃん、ちょっとムッとして、

「そんなことはない。きちんと教えれば修理の手伝いくらいできる」

 そんな訳で、子供達も一緒に、ということになったのですが・・・何をやってもらおう?

 彼らのために見つけた仕事。それは二人一組でタイヤのボルトはずしです。タイヤを外し終えると、ボルトを布で磨いて、今度は次の二人にタイヤを付けてもらいます。

「これで、お小遣いができるね。何に使うの」

と聞くと、年長の子供が笑いながら答えました。

「お母さんにあげるんだよ」

「・・・」

 今の日本では聞かなくなった言葉です。菊ちゃんと私、この言葉に感じ入ってしまい、つい約束の倍の額を子供たちに渡してしまったのでした。

「これは、君のお小遣いだ」

「そして、これはお母さんに」

 溌剌と笑い、よく走る、幸せそうな子供達でした。

 

 こんな楽しい修理をしていると、後ろから奇妙な英語で声を掛けられました。

「ヘーイ、Kitta じゃないのか」

「エッ、誰?・・・アッ、ジョルジョ!」

 不意に声を掛けていたのは、キャメルトロフィーのイタリア代表だったジョルジョです。

「何やってんの」

「お前こそ、何やってんの」

 お互い、分りきったことを聞いてしまいました。そして、懐かし気に話を進めていると、まるで砂漠に舞い降りてきた白鳥のように可憐で美しい女性が近づいてきたのです。長い髪にブルーの目をしています。

Kitta、紹介しよう。俺のパートナー、マドンナ」

「ヒェー!・・・ジョルジョ。お前、こんな美人を・・・」

「バカ、かみさんじゃないよ。パリダカのパートナー、ナビゲーターだ」

 ジョルジョ、今回のパリダカ参戦は、オーナー件ナビゲーターのマドンナに誘われてドライバーをやっているとの事。さらにビックリしたのは、彼らのラリーカーです。パステルグレーを基調に白とピンクで着色されたメルセデス・ベンツGクラスにスポンサーの名前がまったく入っていません。

 kita1302

 私達の「長野号」、長野県民や長野県下の企業が、皆で少しづつ応援しての参加ですから、スポンサーのステッカーだらけ。一見、つぎはぎだらけに見えてしまいます(長野の皆さんゴメンなさい)。

 それにしても、スポンサーの文字が入ってないとすれば、すべて自費です。もしかして、とんでもない富豪の娘さんかもしれない。なんて思うと、ジョルジョなんて無視して、私と菊ちゃん、急にマドンナに優しくなってしまいました。

「マドンナちゃん、もうレースに慣れたかなー?」

「エー、楽しんでるわ。お二人は如何? 結構、苦戦してるみたいね、おでこ傷つけたりして」

 ン? と上目使いになり、額に手をやりながら、

「オイオイ、きついこと言うねー。ビール呑めたからもう大丈夫。パーフェクトだね」

「フーン、日本男児も結構、気楽なのね」

 参りました。私と菊ちゃん、イタリアの男性よりも気楽な日本男児って見られてしまいました。それにしてもマドンナちゃん、溜息の出そうな美人です。

 そして後日、彼女とは「ネマの谷」でロマンチック?な再会をすることになるのです。

 

 赤く大きな太陽が、ゆったりと砂の地平線に沈む頃、あちこちからエグゾースト・ノートが聞こえてきます。1日かけて整備したラリーカー、最後の調整をやっているのでしょう。でも、まだアーク溶接の火花をバシバシ飛ばしているチームもいます。シャーシに大きなトラブルを抱えているのかもしれません。

 シシカバブをしっかり食べ、ビールも呑み、美女とも話し、ホテルの黄色い土壁の中にポンと置かれたマットに寝転がると、私と菊ちゃん、明朝のスタート時間へ向かって、一気に爆睡状態へと落ち込んでいったのでした。

 

 17日朝6時、アガデスからのスタートです。集まったラリーカーを見てビックリ。数がグンと少なくなっています。アフリカに入った直後のトリポリに比べると半分程度。かなりのチームがリタイアしてしまいました。

「北さん、こんなに車が少なくなると、もうズルはできなくなるね」

「そうだな、目立ってしまうからなー」

kita1303  なんてことを話していると、トップクラスのラリーカーが出発です。

 ババン、ババン、ババン、バォン、パンパン、パォ―――ン ってかっこよくスタートするのは、プジョーやパジェロ。私達はいたって普通の何でもない発進です。

 指3本、指2本、指1本、グウ(ジャンケンの)で、スタート!

 ブルブルブル・・・カックン、ボロボロボロ・・・カックン、バラバラバラ・・・てな風なので、観客からの声援も上がらず、アレアレという感じで見送られました。

 

 パリダカ・ラリーの進路は、コマ地図で指示されます。パリからダカールまでの20日間、1日あたり3〜4センチの厚さのコマ地図が20部も渡されたのですから、「エッ、これを全部走るの」 ってビックリ。

 コマ地図のルート説明は、パリダカ開催の数ヶ月前に主催者が実際にルートを走って記載したものです。その調査風景をご覧になりたい方は、クロード・ルルーシェ監督の映画「続・男と女」(「男と女」の続編です)のビデオをレンタルしてみて下さい。綺麗な砂漠とパリダカのルート開発の様子が見れますよ。kita1304

 コマ地図の説明はこんな感じです。

<カップ(方位)2703Km走るとバオバブの木があるから、そこからカップ200へ>

 これは、まだ良いほうで、ひどい指示になると、

30Km先の砂丘に鉄の棒が1本立っているから、そこでカップ200へ>

 そんな30Km先のピンポイントをコンパスだけで行けるの? って感じですが、不思議にも行けてしまうのですね。但し、それは昼間の話。夜になるとそんな鉄の棒なんか探せません。という訳で、ラリー中に夜を迎えた車は、ミスコースをして次々とリタイアしてしまうのです。

 

 ミスコース、小さなミスであれば、それ程問題ではありません。「あら間違えた、バック」でいいのですが、怖いのは集団ミスコース。ラリーの一群があらぬ方向へ行ってしまい、ミスに気付くや皆が慌ててルートを探しはじめるので、コースは滅茶苦茶、ラリーカーはゴチャゴチャで、訳わからなくなってしまいます。

 そして、この集団ミスコース、ダカールまであと2日という「ネマ」〜「ティジカジャ」間で起きたのです。

 そこは、『悪魔の住むというネマの谷』 と聞かされていました。

「そんな、悪魔なんていう所に限って何にもないんだよね」

「そうそう、大袈裟なコケオドシって感じでね」

 なんてタメ口を叩いていたのですが、そのネマの谷で集団ミスコースが発生。赤いパウダー状の砂丘の穴に落ち込んだラリーカーが、一群となって動けなくなってしまったのです。それを知らずに後ろからトロトロとたどり着いた長野号。夜のネマの谷を目の前にして絶句・・・ラリーカーのヘッドライトで砂丘がイルミネーションのようにライティングされているのです。

 

 谷に向かう砂丘の登り坂に10台以上のラリーカーが、スタックしています。その坂の先は、大きな谷になっているようですが、その谷の中からもヘッドライトが交錯しあい、叫ぶようなエグゾーストが響いています。この坂、狭い場所ですから途中で動けなくなくなった車を避ける事ができずに、皆、止まってしまったのでしょう。こういう急な砂丘で止まってしまうと、タイヤは砂に埋もれるばかりで再発進できなくなります。

 実はこのコース、壮大はミスコースだったのですね。皆がその方向に走ったものだから、続く車もそのままくっ付いていき、全員でスタック。そして、長野号もそれに気付かず、一緒に入ってしまいました。

kita1305  でも私達、こうした動けない場所が意外と得意なのです。というのも、イザとなったらキャメルトロフィーで覚えたサンドラダーを使って、亀のように少しずつ砂丘を登ってしまいます。他のラリーカーはバックしたり、再度駆け上ったりしますが、スタックする場所は何をやっても、またスタックです。無駄なことを何度も試みるより、あきらめが肝心、少しずつ登ったほうが早く進めます。

 そんな亀さん走法で登り上がった坂の上、谷の底を見て愕然。中には20台ほどのラリーカーがひしめき合い、皆、蟻地獄から脱出しようとしていたのです。

 

「ネマの悪魔さん、お願いです。ほんの隙間でいいんです、長野号を通して下さい」

 二人は長野号の屋根に座り、遠い視線でタバコを吸いながら、またもやズルな作戦を考え始めたのでした。      (続く)

text by 北 | 2005.05.19 | [ 風が吹くと車が壊れる ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)

May 12, 2005

第12回:砂漠の脱出に成功したけれど・・・物語脱出に失敗

風が吹くと車が壊れる by 北

 フウ・・・サハラ砂漠の脱出作戦、なかなか進展しません。まだ半分です。もっとサクサク書かなければ物語り、タイムアウトになりそうです。

 テルミットでサハラ砂漠の脱出を試みてからゴウレまで、指示の無い砂漠地帯を282Km。コンパスと地図を頼りにやっとの思いで砂漠を迂回する幹線にたどり着いたのですが、ここから今日のゴール地点アガデスまで、まだ900Kmもあります。危険な砂漠地帯を脱出できたと喜んだのも束の間、今度は車の耐久レースと言うより延々と続く退屈な1本道での精神耐久レースです。モトイ、ズルの脱出なのでレースではなく耐久ドライブです。
 アガデスに到着できれば、休息日が1日あるので、車を修理したり、寝だめ食いだめをして、パリダカの後半戦に参加する事ができるのですから、ここは頑張りどころ。にしても眠い・・・。

kita1201  「長野号」、ドライバーは1日毎に交代することにしていたのですが、今回は緊急事態ですから、ここからアガデスまでの900Kmを200Kmづつ菊チャンと北で交代しながら運転することにしました。日本ならば東京から広島くらいの距離でしょうか。時速120Kmの巡航速度で走れば朝8時には着くはずです。その間、ナビゲーターは睡眠を取ります。
 運転を交代するや菊チャン、すぐに爆睡状態。
 ラリーカーでの寝姿は異様です。結構振動が大きい上にヘルメットをかぶっていますから、シートに頭を付けるよりも6点支持のシートベルトに体を預け、前倒して寝たほうが楽なのです。宙に浮いたように体を前に傾け、頭をがっくりと下に向けているので、何となく、殴られて気絶したような姿になりますし、さらに菊チャン、涎を垂らしています。
 そういえば、昨日の昼食のランチボックスを食べて以来、水しか飲んでいません。菊チャン、きっと食事の夢を見てるのでしょう。

 ハラペコの二人を乗せた派手な色のラリーカー「長野号」は、アガデスをめざして砂漠の中に作られたハイウェイを恥ずかしそうに、ヨロヨロと走り続けます。
 それにしても、このドライブ、結構辛いものがあります。砂漠のラリーならば緊張感と景色の美しさに疲れを忘れて走ることができるのですが、夜中の幹線道路、何も見えないのですから、東名高速を走っているのと変わりありません。ただ、時折、砂嵐によって動かされた砂丘のはずれが舌のように道路に入り込んでいる場所があるので要注意。突っ込んでしまうと横転です。
 結局、寝るのが大好きな二人、ドライバーをやりたいという意気込みも消えてしまい、自分の担当するドライブを早く終わらせ、如何に寝るかを考えてしまいます。ということで二人とも、睡魔と戦いながらピッタリ200Kmで車を止めて交代。1Kmもオマケを付けてあげません。

 こうやって交代しながら幹線を走ること400Km、朦朧としているところに、またもやトラブル発生! 突然、菊チャンが叫びました。
「北さん起きろ!トラブルだ」
ダランと前のめりに寝ていた私の頭を菊ちゃんがボコッと叩きます。
「ウー、腹減った・・・エーッ、またトラブルかよー・・・モゴモゴ
 気がつくと車は止まっています。
「どうした?」
「車がガタガタ振動し始めた」
「そうか、いよいよ空中分解、始まったか」
 とりあえず、車を降りて調べてみます。グルッと見て回ると、またもやタイヤのバースト。左後のタイヤがバラバラに砕け散っています。
「アッー・・・幹線に入って空気圧上げたっけ?」
「いいや、上げてない。 クソッ!」
 またもや空気圧上げるのを忘れてしまい、1.2kg/c㎡のまま舗装道路で高速走行してしまったのです。気温がぐっと下がって4~5度になっていますので、空気圧も1.0kg/c㎡以下まで下がっていたはずです。

kita1202 後輪のパンク、荷物が重すぎるのかもしれません。とにかく荷物室に積んであるスペアタイア2本を取り出して後輪タイヤを交換します。さらに前輪タイヤの空気圧を上げますが、そのタイヤもダメージをうけているはず。今度パンクしたらタイヤ屋さんありませんからリタイアです。
「パンクでリタイアだなんて格好悪いよー」
「それもズルやってる最中に、って加えられたら恥の上塗りだよな」

 こうしてハラペコで眠い、長くてズルい夜が過ぎていきました。
 そして夜明け。砂漠の地平から太陽が昇ってから数時間後、フラフラになっていた私達はいつの間にかアガデスの町に到着してしまったのです。今までのオアシスとは違い、大きな町です。
「アレッ、アガデスに着いちゃった」
「良かったじゃない・・・エッ! ゴールは?」
「・・・やばー、俺たちゴールしないで町に入ったぞ。このまま走るとゴールに後ろから到着してしまう」
 急ブレーキです。回りから子供達が走ってきて集まり始めています。囲まれてしまったら動きが取れなくなりますし、ズルがばれてしまいそう。急いでUターンです。
「アーア、今度はアガデスの町から脱出かよー。何てラリーだ」
「・・・」

kita1204

 もと来た道を後ろ向きに走って町の姿が霞んだ頃、大きく迂回して砂漠に戻ります。そして目的のゴールへ。
「いかにもサハラ砂漠で奮闘してきたような感じでゴールだ」
「そう、きつそうな格好してな・・・ちょっと待て、車を止めろよ」
 そして、私、車を降りるや一握りの砂を握り締め、ヘルメットからザザー。そして菊チャンのヘルメットにも振り掛けます。
「フフフッ・・・これでカモフラージュ、完璧」
 こうなると、何だかズルというより知能犯って感じです。他の選手達、特にリタイアしたチームの皆さん、ごめんなさい。

 ゴール!
 主催者達がニコニコと笑って話し掛けてきます。
「よくこんな時間にたどり着いたな・・・サハラ砂漠どうだった」
「アア、とても良かった・・・みたい
「まだゴールしてないラリーカーが結構いて、砂漠で緊急無線が乱れ飛んでるそうだ。まあ、今日は休みだ。ゆっくりしろ」
「アア、有難う・・・って言っていいのかな
 私達、ニッコリと笑って返事したつもりですが、きっと笑い顔、引きつっていたに違いありません。でも、ゴールしてしまえばコッチのもの。突然、二人は顔を見合わせながらガハハハと大笑いしてしまいました。ところが審査員達、私達の大笑いにつられて意味もわからず一緒にガハハハと笑ってしまったのでした。

 ニヤニヤしながら、まずは空港に設置してある救急医療テントに直行です。昨夜、切ってしまった私の額と菊ちゃんの唇を見てもらいます。髭のドクターがガムテームをベリッと剥がしました。
「痛っ!」
 怪我をした時は何ともないのに、なぜ治療になると痛いのでしょう。
「ホー・・・傷口、上手にくっ付いてるな。縫う事はあるまい」
 ってんで、消毒してガーゼをあてて、今度は医療用のテープをベタッ!
――何だ、内容はガムテープと一緒じゃないか。
 ちょっと期待はずれで、がっかりです。
 実は私達、パリダカを究極のパックツアーだと言って、他の選手達のヒンシュクをかっていました。だって、あご足(ご飯と車)付きですし、病院は設置してあるし、緊急時にはパリまでジェットで運んでくれます。特に食事は、どんなに遅くなってもゴールにたどり着ければ、きちんとしたフランス料理が待っているのですから、やっぱり究極のパックツアーですよね。

 アガデスのキャンプ地に入ると、いました!「長野Ⅱ号」と岡ちゃん達。今回、長野からは2台のレースカーと1台のプレスカーが参加しています。でも、「長野Ⅱ号」、アフリカに入って2日目、リビアの砂漠でタイムアウトのリタイアをしてしまたのです。それ以来、ずっと私達の「長野Ⅰ号」をサポートしてくれています。ヨレヨレの「長野Ⅰ号」、このサポートがなければとっくの昔にリタイアです。

kita1203 今回も、ユラユラ揺れるフロントアクスルをすべて自分達のものと交換してくれるというのです。健康な「長野Ⅱ号」からの臓器移植。手術をするドクターは、長野プレスカーで参加したサカさん。みごとなスパナ捌きでアレヨと言う間に「長野Ⅰ号」を新車・・・とまではいきませんが、戦闘可能な車に仕立て上げてくれました。(写真は長野プレスカー、後ろの木はバオバブです)
 爆発寸前のタイヤも交換してくれ、抜け落ちたボルトも付けてもらって、長野から参加した6人はワイワイガヤガヤ、パリダカの休日を楽しんだのでありました。

 そして不気味にも、次年度のCASIOチーム・マネージャー、そんなバンカラでちょっと遊び気分の入った長野チームを遠くからチラチラと眺めながら、私達を調べていたのです。

 やれやれ、この物語、砂漠に入り込んでからというもの、なかなか進みません。今回でタイムアウトかなと思っていたら、このまま走り続けることになりました。
「オイオイ北さん、まだ続けるのかよ」
「しかたあるまい。ゴールするまで、もうしばらく付き合えよ。菊チャン」
 ということで、アガデスで一休みした珍道中、さらに次回へと続きます。  (続く)

text by 北 | 2005.05.12 | [ 風が吹くと車が壊れる ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

May 09, 2005

第11回:成功しそうな脱出作戦

風が吹くと車が壊れる by 北

 前回の続き、サハラ砂漠脱出の物語をお送りします。

kita1101 意思決定の時です。
 私達を送り出してくれた長野の皆さんのことを思うと、ここで、「降参です。リタイアします」と、両手を挙げてカミオンバレーに助けてもらうことはできません。かといって、このままサハラ砂漠の中央に向かってラリーを続行しても結果は同じ。長野号の壊れ方からすれば、遅かれ早かれカミオンバレーに救助されることになるでしょう。
 リタイアを防ぐには、遭難という危険なリスクを負うことになりますが、ズルな方法、ミスコースをしてサハラ砂漠を迂回するしかなさそうです。
 世の中、そんなものですよね。ハイリターンを望むのなら、そのリスクも大きくなるってことです。でも今回は遭難して砂漠の中で干からびてしまうかも・・・と、少々リスクが大きすぎるようです。

 菊ちゃんと話します。といっても気持は決まっていますから、話す内容はありません。掛け声だけです。
「それじゃ・・・」
「・・・そうだな」
 こういう会話って一見ダンディーに聞こえますが、内心ビクビクしていて言葉が出てこないというのが本音です。
 でも、カミオンバレーには、レースを続行し南へミスコースする事を伝えておいたほうが良さそうです。もし遭難しても探す方向が分りますから。
 主催スタッフのサラミおじさんに話します。
「やっぱりレースを続行するよ。但し、南にミスコースしそうだから、そのこと覚えておいて欲しい」
「そうか分った。そのことは記録しておこう。・・・それと、緊急用の水は持ってるな」
「4リッター持ってる」
「よし・・・。それじゃ幹線に出るまでは、くれぐれも軍警備隊のワダチを見失うんじゃないぞ。それと幹線に出たらそのルートから外れるな。幹線に乗っていればいつかは助けられる。それと、もし動けなくなったら電波が届かないと思っても緊急無線発信機の緑ボタンを押せ。できうる限り南を探して・・・まあいい、後は風次第だ」

 サハラ砂漠にはハルマッタンという名の風が東から西へ吹いています。ハルマッタンに削られた岩が砂となって西へ運ばれるので、東国リビアの砂は黄色い粗目砂糖のようですが、サハラ砂漠の中央テネレでは黄土色のグラニュー糖、そして西国モリタニアの砂は赤いパウダーになります。そのハルマッタン、強く吹くと警備隊のワダチを消してしまいますし、砂嵐になってしまうとラリーカーが走行不能に陥ってしまいます。

kita1105

 テルミットから幹線合流の地ゴウレまでは砂漠地帯で、距離282Km。途中に、タケアとオウレラムの集落を通過するのですが、きっと小さなオアシスでしょうから、果たしてその地を確認できるのか不安です。目の前を通り過ぎても分らない可能性があります。そして、ゴウレからアガデスまでは、900Kmの幹線道路です。燃料は、ギリギリですから、幹線に入ったら9Km/リッター程度の省エネ走行をしなくてはいけません。
(この作戦に使った地図をそのまま載せました。書かれた文字もその時のもの。分かれ道にあった唯一のサインを記録していました。そこまでの走行距離は、テルミットから125.7Kmです)

 夜7時、進路をラリールートの北西からゴウレの南西へと変更し、サハラ砂漠脱出の開始です。比較的平坦な砂漠を時速80キロ程度で走ります。徹夜のドライブで睡眠時間が極端に少なくなっているのですが、今までとは違い、失敗すると遭難して帰ってこれなくなってしまうのですから、やや重たい頭の後ろに一本の弦がピーンと張られたような緊張感があります。そして、ヘッドライトに浮かび上がる微かな警備隊のワダチをジッと見つめながら、ひたすら南西に向けて走り続けたのでした。
 砂漠の夜間走行では、走るにつれて目の錯覚が生じます。本当は地平線まで広いはずなのに、夜間は見えているのがヘッドライト部分のみになってしまい、闇が左右から迫ってきます。まるで日本の渓流のように左右を大きな崖で挟まれた感じです。