September 08, 2005
第12回(最終回):ゴールに咲くブーゲンビリア
自然の真中を走る by 北
青く抜けるような空にモッコリとした雲が一列に並んでいます。太陽は熱く、白っぽい穂をした草原の中にユウカリがヒョロッと立ち並び、その真中を熱に焼かれて赤く染まった一本の道が北西へと真直ぐに伸びていました。
キャメルトロフィーのゴールは、オーストラリア北部中央にあるダーウィンです。すでに最終タスクも終わり、タイヤが外れて空中分解しそうになった危ない場面もすり抜け、一路ダーウィンへと向かいます。集合地点はダーウィン郊外のクロコダイルセンター。そこまでは、コンボイを組まずに各車、好き勝手、自由に走るように指示を受けました。時速100kmのオフロード高速走行で、ローバーはガタガタと小さな振動を発し、柔らかい足回りのせいか、時折ボワンと大きな揺れが生じます。
ディーゼルエンジンの重たい唸りと自由に流れていく風景。そんな至福の時に身をまかせていると、このまま永遠に走り続けることができそうな錯覚にとらわれてしまいます。
クックタウンを出発して2週間、疲れているはずなのに感覚は敏感になり、筋肉もほど良く緊張し、体と神経、十分に自然と一体化してしまったようです。
突然、幹線が現れました。東海岸のケアンズを北上してクックタウンに向かう途中でなくなってしまった舗装道路。ここに復活です。舗装道路に乗り込むや、一瞬、エッ!と感じてしまいました。当然のはずの舗装道路、まったく振動が起きず空を飛ぶように静かに走るのにビックリです。何でもないことに改めて感心するなんて、ちょっと自然の真中に居すぎたのでしょうか。
快適な舗装道路をグングン加速していくと、野性化していた感覚がしだいに崩れ去り、元の何でもない文明人に戻ってしまいそうなのが残念です。
「アーア、これでもうキャメル終わりだねー。日本に帰ったら仕事が待ってるのか」
「そうね、通勤電車に、鳴り止まない電話。それと空調機の微かな唸り・・・」
「懐かしいような、帰りたくないような・・・」
そんなことを、ボソッ、ボソッと話していると、時々対向車がヘッドライトをパッシングしています。日本だと、この先でネズミ捕りやってるから注意しろ!の合図なのですが、まさかオーストラリアでネズミ捕りはないでしょう。最初はアレッ何だろう? て思っていたのですが、どうやらキャメルトロフィーのレースカーに挨拶してくれているようなのです。こちらからも、お返しのパッシングです。オーストラリアの方々、気さくで優しい人が多いようです。
大きなトラックの後ろに、たどり着いてしまいました。仕方ないので追い越します。ところが、抜き始めるやビックリ。トラックを2両連結して引っ張っているトレーラートラックは見たことがありますが、オーストラリア、3両連結のロードトレインが走っているのです。なかなか追い越すことができません。グーンと加速して運転席まで近づくや、運転席のトラック運転手、ニコニコ笑いながら大きく手を振って挨拶してくれました。
「オーストラリア、いいねー。皆、ゆったり運転してて」
「そうだね。タクシーのお客さんも、皆、助手席に乗ってるしね」
次第と太陽が傾き始めた頃、集合地のクロコダイルセンターに到着しました。三々五々集まってくるレースカーを待っている間、レース中に見ることが無かったクロコちゃんとご対面。まったく無愛想で動きません。口でも開けてみたらって脅してみても、じっとしています。これじゃレース中、川岸にいたとしても、わかりませんね。
ここからゴールのホテルまでは、パトカーに先導され、コンボイを組んで走ることになりました。ヘッドライトにルーフライトも点灯し、ちょっと恥ずかしい派手な格好になって、まるで凱旋パレードのようです。沿道の方々が「ヤー、お帰り」って感じで手を振ってくれます。次第にダーウィンの中心に近づきました。照明された道路、立体交差、モダンなオフィスビル・・・次第に文明の中へと舞い戻っていきます。
ダイアモンド・ビーチ・ホテルに着きました。歓声と拍手、フラッシュライトが眩しく焚かれる中、「You have made it !(やったぜ)」と書かれたゴールの下をくぐります。
ヒデと硬い握手をし、ヤンと肩を抱きしめあい。カールの頬を押さえました。ブラジルチームは小躍りしています。ビールで乾杯! ゴクンと一口呑むや、皆がビールをかけ始めました。頭から流れてくるビールが塩辛い。
豪州チームのロンと抱き合ったら、彼が言いました。
「KITA、シャツを交換しよう!
「ヤー、交換だ!」
埃に汚れ、汗臭いシャツを脱ぎます。
「コホン!・・・エー、皆さん。今から最後のアナウンスを行ないます。・・・盛り上がってますから、予定より早く、今この場でキャメルトロフィーの優勝者を発表します!」
どよめきが上がります。
「ウイナー(勝利者)・・・フランス!」
どよめきに拍手が加わりました。仏国の怪我をしたジャックとミッシェルが前面に出て行き、選手たちが仏国国家ラ・マルセイエーズを歌う中、二人にキャメルトロフィーが渡されたのでした。
北、ラ・マルセイエーズを歌えませんでした。でも、他国の国家を一緒に歌っている仲間に感動して、それ以来、色々な国の国家を覚えようと努力しています。
キャメルトロフィーは、毎年開催地が変わり、トロフィーも違います。今回は高さ40cmほどのオーストラリアの形をしたプラスチックの箱で、その何に砂が入ってます。今回のキャメルトロフィーとは、太陽に焼かれた草原の赤い砂の事だったのですね。
記念写真を撮るのだと、仏国の二人がレースカーに乗り込みました。そして途中で割れて無くなったフロントガラスの先にトロフィーを突き上げたのでした。
レース後半、仏国チームはゴーグルをしてました。自然の真中に行く時はゴーグルが役に立ちます。特に砂漠ではフロントガラスが割れなくても、風が吹く中、床下にもぐって修理するときには必須です。ゴーグル無しでは何もできなくなります。
部屋に入り、シャワーを浴びました。連日の汗と埃で体から泥のような茶色い水が流れますし、シャンプーもなかなか泡が立ちません。髭をそり、とっておきのシャツを身に付けると、体は最高に爽やかなのですが、心の中は何故かポッカリと穴が開いたような気分です。自然へのホームシックなのでしょうか。
ディナーパーティーに出向きました。集まった選手を見てついニヤッ。皆、端正な出で立ちで、今までとまったく違う都会人の顔をしているのです。野生人の方が個性的なんですがね。そんなことを感じながら分厚いステーキを口にほうばり、モグモグやってると女性ダンシングチームのショーが始まって、思わず肉の塊をゴックン。
結局、日本チームは14カ国中、6位でした。
夜中の午前1時、柔らかなベッドに転がり込んだのですが、なかなか寝られそうにありません。ビールを片手に一人でホテルの庭に出てみました。ブーゲンビリアに囲まれた長椅子に寝そべり、ビールを舐めながら芝生の先に並んでいる汚れたレースカーを眺めていました。
レースカーの上には満天の星が輝いています。体と頭の力を抜いてボーと視点を遠くにしていると、宇宙が大きく体を包み込み、地球の回転がゆっくりと始まります。遠くから風のような地球の動く音がゴーッと聞こえてきました。
ブーゲンビリアの横に人影が見えました。微笑んでいます。・・・家内です。
「アレ! いつここに来たの?」
「フフフッ・・・」
彼女がゆっくりと長椅子の横にやってきました。椅子の横にひざまづくと、胸の上に腕を重ね、頬をそっと腕の中に置きました。ブーゲンビリアの香りの中、微かに家内の香りがします。
夢のような時が、ゆっくりと過ぎていくのでした。
長い間、お付き合い下さり有難う御座いました。特にコメントを頂いた方々には心から感謝しています。車って素晴らしいですね。人の力では行けない場所へ簡単に連れて行ってくれます。皆様も安全で楽しいカーライフを。
完
text by 北 | 2005.09.08 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (32) | トラックバック (0)
September 01, 2005
第11回:フライイング・ダッチマン VS 神風キッド
自然の真中を走る by 北
ゴールのダーウィンまであと2日です。最後のキャンプ地ローパーバーへ向かって450Kmの道程を走り抜かなくてはなりません。昨日までのブッシュとは異なり、低い山脈の麓を越えるので緑が濃くなっています。その森の中に太陽の熱で赤く変色した一本のオフロードが北西へ向かって緩やかに蛇行しながら続き、コンボイ組んだキャメルトロフィーの一行が時速120Kmで高速走行をしました。コンボイと言っても高速走行なので車間は広くなり、埃がモウモウと立ち上がっています。
既にクックタウンを出発して13日目。レースカーは色々な損傷を受けていますし、ドライバーも疲労が蓄積して行動力と判断力が少しずつ低下しています。
午後5時、太陽が大きく西へ傾き、進行方向の地平近くに降りてきました。単調な高速走行の中、注意力が途切れそうな時間帯に正面からの直射日光ですから危ない状況です。
突然、目の前で大きな砂煙が上がりました。一瞬の出来事にトロンとしていた目がカッと開き、アドレナリンが一気に噴出します。
「ヤバイ! 車が転んだ!」
「止まれー!」
急停車。でも地面は目の細かい土ですから急には止まれず、ザザーと車を滑らせながらブレーキを掛けます。後からドシンと追突されました。
3台前を走っていたプレスカーが逆さまに転倒したのです。実はこのシーン、バックナンバーに載っています。詳しくは「風が吹くと車が壊れる、第9回:転がる、車と三角板」をご覧下さい。
キャメルトロフィーに使用した山吹色のランドローバー・ディフェンダー80と110、屋根のキャリアにサンドラダーや荷物を乗せているので意外と重心が高くなっています。それにどうもランドローバーの足回り、高速走行よりも泥濘地や砂漠の走破性能を重視して設計されているようなのです。障害物を乗り越えるための地上最低高は高く、コイルスプリングもやや柔らかめの大きなストロークを持っているので、ギャップや岩場を越そうとするとタイヤがクニャーという感じで地面に追従し、ヌメヌメと荒地を走り抜けます。
その代わり、高速走行になるとロールが激しくなります。カーブに入るやグワンと大きく外側に傾き、カーブを出るとその揺り返しがボワンと逆方向に発生します。なんだか波に揺られる小船に乗っている感じです。
アフリカや東南アジアの自然の真中で生活するには、悪路走破性の高いランドローバーは、とっても便利な車です。でも悪路の少ない日本や欧米では、やや高速性能に欠けるってんで、先進国への輸出車は足回りを硬くしているそうなのですね。
キャメルトロフィーに使用したランドローバーは、悪路用の足回り設定になっていますから、高い重心も影響して高速走行で転んでしまったのでしょう。
高速走行に徹するパリダカの場合は逆です。パリダカでは砂丘越えもありますが、ほとんどが平らな土漠を高速で走りぬけますから、足回りを硬くしておきます。
バネのレートを一段硬めにしておいて、普段は1本のショック(ショックアブソーバー)を2本にします。かなり乗り心地は悪くなるのですが、その設定でオフロードを高速で走ると意外にも地面のガタガタにうまく合うのですね。それとショック、負担が大きいので2本にして容量を倍にすれば、ショックが抜けてダメになる可能性が低くなります。
でもパリダカ、ジャンプをしてしまうのでショックに違った問題が生じます。ジャンプして空中にいる間、ホーシングとタイヤはショックでぶら下がる状態になっています。それを何度も繰り返すとショック、引っ張られて千切れてしまうのです。ですからパリダカでは、ショックの最大伸び巾にまで広がらないようにフレームからホーシングに吊りベルトを付け、ジャンプした時にホーシングをベルトでぶら下げるようにしています。
なんて夢中で話し込んでしまうと、家内、
「あなた・・・そんなオタク話、面白くありませんよ!」
「やっぱりねー・・・ゴメン」
結局、スペインのミゲーレが転倒させたプレスカー、クシャクシャの顔になってしまったのですが、元に戻してレース続行です。
レース最終日、ローパーバー南方30Kmにあるホジソン川で最終タスクを終え、キャメルトロフィーのゴール、ダーウィンまでの645Kmを自由に走ることになりました。その時のお話です。
穏やかに上下する丘陵地を抜け、山岳地帯から平地に降りてきました。今まで茶色だったブッシュの穂先が白に変わり、草の背が低くなりました。道は相変わらず埃だらけ。前方のレースカーに近づくと、埃でまったく道が見えなくなるので接近できません。
コンボイを解かれたレースカー、スピードを上げて草原の一本道を走ります。その時でした。バックミラーに後続のレースカーが見え、次第に接近してくるのです。
「後ろのチーム、やけに近づいて来たな」
「埃で真っ白になってしまうのに?」
ヒデと不思議な後続車の話をしていると、その車、一気に日本チームに追い付き、パッシングを始めました。
「何だー! 後ろから、まくってるぞ」
「クソー、誰だか知らんが、レース仕掛けてんだ。負けるな! 北さん」
「ヨッシ! 抜かせるものか」
一気に1対1のレース開始です。グンとアクセルを踏み込むや、ボワンボワンと車体が跳ね上がり、荷物室のナベや工具がガシャガシャとうるさい音を発てます。やっぱりパリダカ仕様のラリーカーとは違います。やけにフワフワと車体が上下し、ちょうどモーターボートで海の波を乗り上げている感じです。
大きなカーブに差し掛かりました。このままでは転倒したミゲーレの二の舞になるとブレーキを掛けたのですが、そこは素人、かなり減速させてしまい後続車が並んでしまいました。各車、フェンダーの側面に国旗が付いてます。見ると、赤・白・青です。
「おかしいな、フランスのジャック達、穏やか奴なのにどうしたんだろう?」
「フム・・・違う! 横に赤・白・青はオランダだ!」
「エッ・・・フライイング・ダッチマン!」
実はオランダチーム、走り屋のスピード狂なのです。という訳で「フライイング・ダッチマン」という、あだ名が付いていて、国旗の横に英語でいたずら書きされています。意味は「さまよえるオランダ船(幽霊船)」 この幽霊船、黒い船体に真っ赤な帆を上げて、嵐の中を飛ぶように早く走るのだそうです。そして、その幽霊船を見た船乗りは、二度と海から戻ってこられなくなるという、恐ろしいもの。というので「カッ飛びオランダ」って感じのあだ名です。
日本チームにも、あだ名がフェンダーに書かれています。「KAMIKAZE―KID(神風キッド)」 日本チーム、フレームを曲げてしまうほど派手にジャンプしたり、谷に突っ込んだり。というので、ベルギーのクリスに書かれてしまいました。 (写真をポップ・アップしてみて下さい。地面で跳ねているのはイナゴ。空を飛んでるのは、そのイナゴを食べようとする鳥。イナゴの異常発生、初めて見ました)
「フライイング・ダッチマン」 対 「神風キッド」の戦いだ。なんて言ってたら、さすがのオランダチーム、グンと加速して真横に並びました。そして何か叫びました。
「ダッチマン、何か叫んでるぞ?」
「何だ?・・・S・T・O・P・・・止まれだって」
「レースじゃない。何かを知らせに来たんだ!」
オランダチーム、走るのが速いので、ちょくちょく伝令役をやってます。
急ブレーキ! ザザザーとブレーキングするや、後ろから車の立ち上げた埃がモワーッと押し寄せてきました。目の前が真っ白で、その靄の中にオランダチームのブレーキライトだけが光っていました。
「どうした?」
「ジャパン、お前達、危ないぞ。前輪がフラついてる」
「エッ・・・この車が!」
タイヤを調べると、左前輪のボルトが完全に緩んでグラグラになっています。そういえば、レースが始まってまもない頃、タイヤに傷を付けたので安全のためスペアタイヤと交換したのです。きっとその時の締め付けが甘く、2週間のオフロード走行で緩んでしまったのでしょう。もし、オランダチームが教えてくれなければ、前輪は完全に吹き飛んでしまい、皆さんサヨウナラってことになってしまったに違いありません。
ウインチワイヤーが切れ、フックで足を怪我した米国チーム。ジャッキの鉄パイプで気絶した仏国チーム。クリークでレースカーに潰されそうになった豪州チーム。そして最後は、死んでしまった日本チーム、・・・そんな事にならなくて良かった。
究極の冒険パックツアーだ、などと茶化していたのですが、やっぱり危ない冒険レース。タイヤのボルトと気を引き締めなおして、ゴールのダーウィンまでもう少しです。
(続く)
text by 北 | 2005.09.01 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (8) | トラックバック (0)
August 25, 2005
第10回:岩陰からトカゲが睨みつける
自然の真中を走る by 北
キャメルトロフィー・オーストラリアには多様なステージがありました。出発したクックタウンからミッシェル川周辺までは、ユーカリ林の中、埃っぽいブッシュが一面に生えていました。岩場の小クリークを渡るタスクが実施されたレイチャード川周辺は、気温が上がり乾燥しているせいか、植生も背の低い草原です。さらに内陸へ入ると土獏へと変化します。そこから北へ向かうとカーペンタリア湾に近づき、トロピカルな風景へと変わっていきました。
乾燥地帯のレイチャード川からバークタウンを通過し、さらに350Km先のウーラゴラングまで、土獏の道を西へ向かって時速100Kmで走り抜け、そのウーラゴラングから北上するとカーペンタリア湾です。
オーストラリア西岸のクックタウンを出発して10日目、キャメルトロフィー・オーストラリア3200Kmの行程中、もっとも険しく美しいカーペンタリア湾沿いを鈍い山吹色をした24台のローバーがゆっくりと西へ向かいました。背の高さもあるブッシュが大地を一面に覆い、幾重にも重なるユーカリの木々が行く手を遮ります。細く痩せたユウカリの木が天に向かって真直ぐ立ち並び、抜けるような青い空から太陽がジーンと音を立てて大地に降り注いでいます。
岩は太陽の白さに染まり、コントラストの強い岩陰からトカゲが静かな午後を邪魔されたとばかりに、私達を睨みつけていました。風は熱く、時折漂うユーカリの香りが暑さを一層刺激的にします。
フッと風の中に潮の香りを感じました。カーペンタリア湾が近いのでしょう。植生もシュロやパンダナスといったトロピカルな姿に変わってきました。
レースカー、クックタウンを出発した時は、皆同じ条件だったのですが、ここに至って各チーム、何らかの損傷を受けています。デフの調子の悪いのはベルギー。マレーシアもトランスミッションのトラブルがあるようです。フランスはフロントガラスにヒビが入っています。そして日本チーム、谷にドシンと突っ込むことが多くフレームが軽く反ってしまったようで、ボディーが歪んでしまいました。
ということで、一見同じ様に見えるランドローバー、荒れた大地を同じペースで走ることができません。意外に簡単な溝でスタックするレースカーが出始めたのです。
「オーイ待ってくれー。スタックだー」
「オイオイ、まただよ。イタリアチーム、センターデフの調子が悪いみたい。しょうがない引っ張ってやるか」
てな具合で、病気持ちと言うか、トラブル持ちのレースカーを牽引しながら走ります。その場限りのスタックならばウインチで引っ張ることもできるのですが、連続してスタックが発生するので、トーロープ(牽引ロープ)で引っ張りながら難所を乗り越えます。
昔の牽引ロープは、何でもない布ベルトだったので、一気に引っぱるとガックンと強い衝撃がありました。でも今のトーロープは、中にゴムが入っているので、その衝撃が発生しません。このジワーと引っ張り力が伝わる方法、牽引ではとても有効なんですね。ガクンと衝撃的に引っ張ると、前を走る牽引車へ急な力が一瞬に加わり、一緒にスタックしてしまうのですが、引っ張り力をゴムで分散すると、力を後続車に確実に伝えることができます。
牽引車がバオーンと走り始めると、トーロープがギュィーンと伸びて、後続車、フラフラって感じで一緒に着いてきます。
ヒルクライム(登坂)も似ています。バオーンと力を込めて助走し、そのまま坂の途中でもバオーンとを高いトルクを加えてスリップさせるのは、登坂の素人です。坂道のプロは、坂を登り始めると何となく、ヨレヨレ・アレアレと飄々とした感じで坂を登ってしまいます。タイヤに加わるトルクをスリップするギリギリのところでコントロールするのですね。
ということで、自然の真中では一気に全力を出し切るよりも、ジワーと力を分散して加えるほうが旨くいくことが多いようです。もちろん、これは車に限ったことではなく、人間にも同じことが言えます。力の分散とバランス。そしていざとなった時の集中力。何となく頑張り過ぎない態勢。どうもこの辺りが自然の真中でのコツかな、なんて言うと・・・家内、
「あなた、我が家は自然の真中じゃありません! もっと力入れて家事、手伝ってよ」
だって。いやはや、グータラの理由付けも結構大変です(笑)。
夕方の4時、コルバート川へ着きました。夕方といっても、かなり西へ来たので夕暮れが遅くなって、まだ昼間です。それまでの川は黄色に濁っていたのですが、コルバート川、透明で水量があり、川面に夕日がキラキラと輝いてとても綺麗です。まるでオアシス。
皆が、埃だらけのシャツを脱ぎ捨て、一斉に川へ飛び込みました。ポッコリと川に浮かんで透けるような青空を眺めると、街から数百キロ離れた川辺、この自然のど真中を知っている人はいるのだろうか、などと考えてしまいました。
フッと私の足を何かが触りました。アレッと思うとまた触られます。ボコッと水にもぐって眺めると。 沢山の魚が泳いでいるのです。まったく逃げようとしません。凄い! 魚を手掴みできそうです。きっと魚達、人間を知らないのでしょう。
そんな無垢な魚と戯れていると、大きな魚がやってきました。
「ン・・・? 何だ、やけに大きな魚だな」
「きっとホワイトフィッシュだよ」
一緒にプカプカ浮かんでいた独国のピーターが答えました。
「フーン、そんな魚、知らないな。ちょっと見てみよう・・・」
なんて言いながら川の中を覗いてビックリ。慌てて溺れそうになりました。やって来たのは、1mを越えるサメなのです。
「ヒョエー・・・ジョウズだー!」
「まさか、川にいる訳ないだろー・・・ドレドレ・・・ゲー!」
「なんだ、この川は?」
水を舐めて解りました。しょっぱいのです。コルバート川、海に近くて満潮に乗って海の魚が入り込んでいたのですね。
結局、夕暮れが迫る頃、競技委員のジョンが90cm程のバラマンディーを3匹釣ってきました。淡水性のバラマンディーは保護されているのですが、海洋性のものは捕獲、食用が許可されているので、その夜はバラマンディー・パーティーです。
満天の星空に向かって焚き火の煙がたち昇る中、回ってきたウイスキーをグビッとやって、焼き上がったバラマンディーを口に放り込むと、もう最高。ほど良く疲れた筋肉と脳味噌がダラーとして、胃から幸せが満ち溢れてきます。
豪州チームのグレンが隣に座っていたので、尋ねてみました。
「グレン、南の夜空は初めてなんだけど、南極はどうやって見つけるの?」
「ヒック(酔)・・・よかいや、南極はたいな、南十字星の長かとこをたい、3倍したところにあるとよう」
豪州英語、くせがあります。アイやオウの発音が多いので、なんだか博多弁に似ている感じがします。
「なるほどねー。ところで、南十字星はどうやって見つけるの」
「南十字星・・・そりゃー簡単ばい。ホレ!ここに在るッたい」
酔っぱらったグレン、ニヤニヤ笑いながら、自分のシャツに縫いつけられた豪州の国旗を指差します。ジッと覗き込んで見ると、そこには小さな南十字星が輝いていました。
翌朝、カンタベリー湾のノーザンブッシュを離れるため、南西に進路を取り出発しました。所々に出現する大きな絶壁を迂回して、岩の上を縫うように走ります。気温は高いのですが海からの風が心地よく吹いています。空には、モコッと独立した雲が一列に並び、北東から南西に連続して連なっていました。日本では見た事のない、南半球の大陸的な雲です。
丘陵地を越え平地に戻るにつれ、次第とスピードが上がります。残るは3日。ゴールのダーウィンへ向かって、色々な損傷を持つレースカーの一群が西へ向かって時速100Kmで驀進したのでした。でも疲れているのは車だけではありません。ドライバーも疲れが蓄積しています。オフロードの高速走行、以外な事故が発生し始めました。
(続く)
text by 北 | 2005.08.25 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (3) | トラックバック (0)
August 19, 2005
第9回:ドライビング・タスク
自然の真中を走る by 北
ゴムボートに乗せて、すべてのレースカーがミッシェル川を渡り終えたのは午後5時を過ぎた頃でした。朝から一日中、28台の車を押したり引っ張ったりして川を渡したので、皆、疲れてしまいました。ヤレヤレと一息付いているとハンドスピーカーのアナウンスです。
「今から、第6回目のタスク(課題)を実施します」
「エー、タスクやるの・・・もう疲れたよー」
前日、対岸でドライビング・タスクを一つこなし、もうここでは無いだろうと思っていたので不意をつかれました。疲れた上に加えられるタスク、主催者、結構意地悪です
今までのタスクは、川を走ったり、泥の中を脱出することが多かったのですが、今回のタスクはミッシェル川の河川敷に広がる砂地で行われます。
まず、各国のレースカー14台が川の中に入り、スタック(進退不能)状態にさせられます。そして、ヨーイドンで、そのスタックから脱出するのです。早く脱出できれば高得点を得る事ができ、30分を超えると失格で無得点になります。
疲れたー、などと呟いていたのですが、タスクの準備が進むや次第と闘争心が沸いてきました。やっぱりレースですから、他のチームには負たくありません。
今回のタスク、ちょっと頭を使います。砂地で車が半分水の中に入っているので、サンドラダーだけで脱出するのは難しいかな? でもウインチを使うには砂地が広すぎてアンカーになる木や岩が無いので、どうしたものかと悩んでいると、スタートのホーンがパフォ――って鳴らされました。
とりあえずジャッキで車体を上げます。タイヤの下にサンドラーダーを轢くのです。もし、サンドラダーだけでレースカーを動かすことができれば儲けもの。早く脱出できるのですから、多くのチームが、まずはサンドラダーを使って脱出しようと試みました。でも、結局それは無理。水の中、浮力のせいかサンドラダーでは、まったく動きません。
そこで、サンドラダーと一緒に砂地へウインチのアンカーを作ることにしました。ヒデが氷に穴を開けるアイス・オーガーのような大きなネジ状のアンカーを20m程先の砂地に埋め込みます。本来は硬い土に埋め込むためのアンカー、砂に有効なのか判断が難しいところ。うまくいくのだろうか。
ところが、横を見ると米国チームのフランク、変なことをやってます。砂地に大きな穴を掘っているのです。何やら落とし穴を作っている感じ。
――何をアンカーにするつもりだろう・・・自分が穴に入るのかな?
なんて思っていると、今度は同僚のカールがスペアタイアを外しにかかりました。なるほど、タイヤを砂の奥深くに埋めてそれをアンカーにするつもりです。
日本チーム、サンドラダーとウインチの準備ができました。既に20分ほど経過してますが、ここで脱出に成功すれば高得点が取れます。さあ、一気に進んでくれ!
ウインチの弛みを取り、ワーヤーをピーンと張りました。そして、反動をつけるようにジワッ、ジワッとタイヤのトルクを上げながら、一緒にウインチを回します。ググッとローバーが動き始めた、その時でした・・・ウインチのアンカー、クニャ―って砂の中から頭を出し、とても軟弱にヘロヘロって感じで抜けてしまったのです。
「クソッ! このアンカー、砂にはまったく効かないぞ」
「アーア、アイデア倒れだ・・・他のアンカーに変えなくっちゃ」
でも、時間があまりありません。そして、横を見ると・・・。
皆よりも遅れて、砂に大きな落とし穴を作っていた米国チーム、タイヤを埋めたアンカーが出来上がりました。簡単なアンカーを作って失敗するチームが続出する中、米国チームがウイ――ンとウインチを巻き込み、バオーとエンジンを吹かすや、一気に水の中からレースカーが上がってきたのでした。
「ガハハハッ・・・諸君、お先に!」
フランクとカールが、皆に手を振り、大笑いしながらゴールへと走っていきます。そして、同じように時間を使ってタイヤを砂に埋めたオランダチームも、脱出に成功です。
「アーア、急がば回れって、このことだよな」
なんて呟くと、パフォ――と、終了の合図。残念と思いきや、やや離れた一台のレースカーに皆が駆け寄っています。
「どうしたんだろう、何かあったのかな」
「アッ! メディカル・カーが走ってくる」
キャメルトロフィー、オフィシャル・カーの中にメディカル・カー、メカニック・カーがいます。メディカル・カー、医師のハーウィック先生が乗っていて、車には簡単な手術設備を搭載しています。そして、もし重病や大怪我が発生した場合は、双発の飛行機がキャメルトロフィーの50km圏域で待機していて、いつでも最寄の救急病院に運んでくれることになっているのです。
パリダカもそうですが、こういう野蛮な冒険レース、サポート体制がしっかりしていないと安心できませんよね。
北とヒデも皆の所へ走って行きました。すると仏国チームのジャックが頭から血を流して倒れています。話を聞くと、ジャッキのレバーが跳ね返って、ジャックの頭を直撃したのだそうです。そのレバー、鉄パイプでできていますから、かなりの打撃だったはず。
大丈夫だろうかと心配していると、以前ジャックと口論をしていたベルギーのジェフリがブラリとやってきて、軽い口調で言いました。
「大丈夫さ、奴、ガチガチの石頭だから」
キャメルトロフィーのタスク、色々な種類がありました。夜中に指示書が渡されて、満天の星空の下を走り抜けるナイト・オリエンテーリング。登坂を早さだけで競うヒルクライム。川を渡るリバークロッシング。そして以外だったのが、巾1.5mのクリークを渡るタスクです。
人が簡単にジャンプできる小さな溝なのですが、そこを車で渡りなさいというのです。方法は橋を掛けることになります。もし4本の丸太があれば、2本を1組にロープで結び、2組を車軸の巾に設置すれば、車が渡れる橋を作ることができます。この丸太橋、冬のバーミンガムで練習したのですが、2本の丸太の間にタイヤが挟まって、意外とうまく走れます。
でもタスクが行われたレイチャード川の小さな支流、岩場で橋の材料がありません。仕方なくサンドラダーを2枚重ねてクリークに渡し、その上を走るのですが、サンドラダー、単なるジュラルミンの板ですから、グニャッと曲がってしまいます。その曲がってしまうサンドラダーを岩場のどこに架けるか、そこがコツなんですね。
英国チームは、奇抜なアイデアで勝負してきました。各レースカー、スペアタイヤを2本持っているのですが、それをクリークに落とし込み、その上にサンドラダーを架けたのです。一見、グッドアイデア。
「なるほどねー、タイヤをクリークに引っ掛けようってことか」
と感心したのですが、結果は失敗。タイヤの径がクリークより小さすぎて沈んでしまい、英国のレースカー、クリークに落っこちてしまいました。
落ちると大変です。相手は岩なので、車体の裏をゴッチンと打ち、ガリガリと擦る事になって、エンジン・パンを潰したり、マフラーを無くしたり、デフを割ったりと、色んな部品が損傷してしまいます。
「アララー・・・英国チーム、車、壊しちゃったよ」
「これじゃ、リタイアでサヨナラだな」
競争相手が1チームいなくなったと微笑んでいると、いつもキャメルトロフィーの最後を走っている、メカニカル・カーの技師、デリックとフレッドがやってきて、チョチョイト修理してしまいました。残念。
診療所と救急車(飛行機)、そして修理工場付きのレース。やっぱりキャメルトロフィーも究極の冒険パックツアーだったのですね(笑)。
(続く)
text by 北 | 2005.08.19 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
August 11, 2005
第8回:レースカー、ゴムボートで渡河
自然の真中を走る by 北
草原を走り抜け、クロコダイルの住む川を渡って、ミッシェル・リバーにたどり着きました。今までの川とは違い、大きな河です。川幅200〜300m。干ばつにも関わらず水域の巾も100mを超えています。
夕暮れ、泥の中をウインチで脱出するドライビング・タスク(課題)を一つこなすと、主催者のアナウンスがありました。
「明朝は、このミッシェル・リバーを渡ります。大変な作業になりそうなので、今夜はゆっくりと休んで下さい。ちなみに、夜間の水浴びは禁止です。この川にはクロコダイルがいますから」
「エー、まさかこんな開けた川に・・・?」
なんて悪態を付いてみるのですが、やっぱりクロコダイルが怖いので、誰も夜の水浴びをしようとはしません。
赤い夕焼けがしだいに濃紺に変わり、無数の星が空いっぱいに輝き始めました。その天頂に小さな星がクロスした南十字星があります。南半球の夜空、星や星座がまったく解りません。見たことのない星空を眺めているうちに、同時刻、日本で私を待っている家内と子供は何をしているのかな、なんてマイホームを愛しく想っていると、何時の間にか深い眠りへと落ち込んでしまいました。
静まったキャンプ地、焚火の残り火がチロチロと燃え、あたり一面に煙の香りが漂っています。
早朝、日の出前に目が醒めました。早寝早起、自然の真中に出向くと生活のリズムが変わります。というより、本来の姿に戻るのでしょう。きちんと寝れ、お腹も減り、ウンコもしっかりと出ます。
「ヤー、朝飯だ」
日本チームの朝食はいたって合理的です。夜のうちに翌日の飲料水と朝食を作っておきます。まず、多量の水を鍋に入れ、焚火で沸騰させるのですが、その際、朝食用の農協レトルト米を放り込んでおきます。すると、翌朝は安全な水とご飯ができていて、その生温かい水(お湯)で味噌汁を作り、イワシ缶を開け、梅干を添えると立派な日本男子の朝食の出来上がりです。
もちろん、残りの水(ぬるいお湯)には、色と匂い消しのためのお茶パックを投げ入れ、水筒に確保しておきます。
朝のミーティングが始まりました。
「今日は、ここでミッシェル・リバーを渡ります」
皆がざわめきます。
「エッ・・・川は深いんだぞ、どうやって渡るの?」
「橋を架けるんじゃない」
「まさか・・・水に潜って走るんだよ」
なんて言ってると、主催者、ジャジャーンとまだ膨らませていないゴムボートを出しました。
「ゴムボート?・・・これに乗せるの?」
キャメルトロフィーのランドローバー、2トン以上ありますし、食料やキャンプ用具まで積んでいるので2.5トン以上、サポートのメカニカル・カーなんて3トンはゆうに越えていそうです。
まず、大型のゴムボートを2艘膨らまし、その2艘を横に連結します。そしてタイヤ受けのラダーを縦に2列並べてレースカーをその上の乗せようというのです。単純計算、1艘のボートが最大2トンの荷重を受けることになります。
なる程・・・それは面白そう。車をゴムボートに乗せるなんて誰も経験したことないので、皆、興味深々です。
まず、電動ポンプでボートに空気を入れます。結構、時間が掛かるのですが、まあこんなものだろうと作り上げると、ダメが出されました。予想以上に空気圧を高くしろと言われます。爆発しないだろうかと思える程パンパンに空気を入れないと、レースカーを乗せた時に船型が保たれないのだそうです。
次は2艘のボートにアルミラダーを2本横に架け、ゴムボートを連結です。ずれたりすると川の途中で分解沈没してしまいますから、しっかりと固定します。さらに、その上へ車が乗り入れるための床付きアルミラダーを車軸の巾に合わせて縦に2本架けました。縦のアルミラダー、船尾の部分が跳ね上げ式になっていて、降ろすと地面に付き、そこからボートへ乗り込むことができます。
「フムー、アイデアはOK。でも、本当に沈まないのだろうか」
「ゴムだから、パンクしたらアウトだよね」
なんて勝手な感想を呟きながらも、実験に1台乗っけてみるこにしました。まずは、出場国を代表し、主催地オーストラリア・チームのレースカーです。
アルミラダーの跳ね上げが降ろされ、そこに豪州チームが前輪を乗せました。ボートのへさきがクンと上がります。さらに車が前進すると、ゴムボート、フニャッと変形してズルズルと前へ動き始めてしまいました。
ボートの乗込み、失敗です。車が乗込もうとすると、ボートが前へ進んでしまいます。数人でロープを岸へ引っ張っているのですが、まったくの力不足。仕方ないので、レースカーでボートを固定することにしました。2台のレースカーがボートの上流と下流に位置し、ウインチでボートを岸へ引っ張ります。
乗込み再挑戦。ウインチで引っ張っているせいか、ボートは動きません。でも反作用で船体がギューンと大きく変形します。なんとなく口元で風船を膨らませている感じで、皆が渋い顔になり、ちょっと横にそむけています。その時でした、
「バーーン!」 ドキッ!
米国のフランクが両手を叩き、大きな声で叫びました。いたずらです。
「ビックリするじゃないか!」
嚇された面々、ニヤニヤしているフランクの肩をバカヤロー!って小突きます。まったく子供みたいだ、なんて。
ボートの乗込み、やっと成功です。豪州チーム、微妙に前後のバランスを取ってボートの真中にレースカーを乗せました。そしてとりあえず、そのまま対岸へと渡ってみることにしたのです。川の途中、深い場所もあるので、5馬力の小さな船外エンジンを付けて出航です。
8人程度がボートの左右を押しながら、岸を離れていきました。少しずつ川下へ流されます。そして足の届かない深さになると、皆、ボートの舷側に腰掛けました。そこからは船外エンジンで進むのですが、大失敗です。エンジンが小さすぎて、豪州チームを乗せた輸送ボート、どんどん下流へと流されていくのです。
「ヤバイ! 豪州チーム流れて行った」
「行き先、海かも」
「コリャー、やっぱりアイデア倒れの失敗だ。サヨーナラー」
皆が手を振っています。
オーストラリアの大草原の真中をサラサラと流れるミッシェル・リバー。豪州チームは、ゆったりと自然の力に流されて、遠い遠い岸辺へ向かって漂流したのでありました。
そして5馬力の船外エンジンを持ち込んだ主催者、ミッシェル・リバーの岸辺に座り込み、フーッと深いため息をつくと、それを見ていたクロコダイルがニヤッと笑って尻尾を振っていました。
その後、結局、小さなエンジンよりも人力の方が早いということになり、皆で輸送ボートを押したり引っ張ったり。レースカー14台、オフィシャル・カー14台の計28台を半日かけて渡してしまいました。
渡河が終わって、ベルギーのジェフリが一言。
「これって、車のレースなのかいな?」
text by 北 | 2005.08.11 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (0)
August 04, 2005
第7回:川を渡るとクロコダイル
自然の真中を走る by 北
オーストラリア北部、ノーザンテリトリーのブッシュをユラユラと西へ向かって走ること6時間、埃だらけの小さなトレールに突き当たりました。
地図によると、この道をさらに西へ向かって進めば今日の目的地ミッシェル川へたどり着けます。ユーカリの林が次第に開け、平らな草原へと変化していくようです。
アメリカ・チームのフランクが提案しました。
「ここからは一本道だし、埃だらけになるから少し離れて走ろう。どうだい」
「それがいい、後塵にまみれて走るのは嫌だからね」
「それじゃ、途中で何度か橋のない川を渡らなければならないから、そこで一緒になるとしよう」
と言うや、日、米、伊、マレーの各チーム、我先にランドローバーへ駆け込みます。皆、後ろを走りたくないのです。なにしろ、すごい埃が舞い上がりますから、より前方を走ろうとします。日本チーム、イタリアに続く2番手で発進です。
ブッシュの中には道がないのですから、時速40Km程度のいたってゆったりとしたドライブだったのですが、トレールに出るや一気にスピードアップ。でも、道に大きな穴があったり、ワダチが乱れてたりしているので、それ程でもなく、時速70Km〜80Kmで埃をモウモウと立ち上げて走ります。
本来、オーストラリア北部の3月は雨季なので、もっとドロドロとした道でなくてはならないのですが、その年は、まれに見る干ばつで大地が干上がっていたのだそうです。
出発直前、ケアンズの放送局が嫌なことを言ってました。
「今年は大干ばつです。クリークや沼の水が少なくなり、クロコダイルの餌が少なくなっているので、人を襲う危険性が高まっています。そうした水辺に行く場合は充分気を付けて下さい」
それを聞いた北とヒデ、ビビッた目付きで、
「エー、俺達そのクロコダイルの棲家に向かうんじゃないのかー」
「やめてくれよねー、そういう冗談を放送するのは・・・」
こうしてやって来たのがクロコダイルの棲家。ユーカリ林にゴツゴツとした岩が重なり、小さな川が流れています。もちろん川に橋は掛かっていません。イタリアチームが川を前にして止まっていました。そこに、日、米、マレーの順に到着です。
「どうしたのジョルジョ? 何で川を渡らないの?」
「だって・・・見てごらんよ、そこの看板」
と言われて、川岸に立てられた看板を眺めると・・・。
『注意。この川にはクロコダイルが住んでいます。水泳禁止!』
「ゲー、ここ、ク、クロコちゃんのお家なんだ」
「そう。この川の水深を調べるの・・・ちょっと怖いよな」
「ちょっとじゃなく・・・とても怖い、だよ」



