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オーナーズクラブ

September 08, 2005

第12回(最終回):ゴールに咲くブーゲンビリア

自然の真中を走る by 北

kita21201 青く抜けるような空にモッコリとした雲が一列に並んでいます。太陽は熱く、白っぽい穂をした草原の中にユウカリがヒョロッと立ち並び、その真中を熱に焼かれて赤く染まった一本の道が北西へと真直ぐに伸びていました。

 キャメルトロフィーのゴールは、オーストラリア北部中央にあるダーウィンです。すでに最終タスクも終わり、タイヤが外れて空中分解しそうになった危ない場面もすり抜け、一路ダーウィンへと向かいます。集合地点はダーウィン郊外のクロコダイルセンター。そこまでは、コンボイを組まずに各車、好き勝手、自由に走るように指示を受けました。時速100kmのオフロード高速走行で、ローバーはガタガタと小さな振動を発し、柔らかい足回りのせいか、時折ボワンと大きな揺れが生じます。

 ディーゼルエンジンの重たい唸りと自由に流れていく風景。そんな至福の時に身をまかせていると、このまま永遠に走り続けることができそうな錯覚にとらわれてしまいます。

 クックタウンを出発して2週間、疲れているはずなのに感覚は敏感になり、筋肉もほど良く緊張し、体と神経、十分に自然と一体化してしまったようです。

kita21202  突然、幹線が現れました。東海岸のケアンズを北上してクックタウンに向かう途中でなくなってしまった舗装道路。ここに復活です。舗装道路に乗り込むや、一瞬、エッ!と感じてしまいました。当然のはずの舗装道路、まったく振動が起きず空を飛ぶように静かに走るのにビックリです。何でもないことに改めて感心するなんて、ちょっと自然の真中に居すぎたのでしょうか。

 快適な舗装道路をグングン加速していくと、野性化していた感覚がしだいに崩れ去り、元の何でもない文明人に戻ってしまいそうなのが残念です。

「アーア、これでもうキャメル終わりだねー。日本に帰ったら仕事が待ってるのか」

「そうね、通勤電車に、鳴り止まない電話。それと空調機の微かな唸り・・・」

「懐かしいような、帰りたくないような・・・」

 そんなことを、ボソッ、ボソッと話していると、時々対向車がヘッドライトをパッシングしています。日本だと、この先でネズミ捕りやってるから注意しろ!の合図なのですが、まさかオーストラリアでネズミ捕りはないでしょう。最初はアレッ何だろう? て思っていたのですが、どうやらキャメルトロフィーのレースカーに挨拶してくれているようなのです。こちらからも、お返しのパッシングです。オーストラリアの方々、気さくで優しい人が多いようです。

 

 大きなトラックの後ろに、たどり着いてしまいました。仕方ないので追い越します。ところが、抜き始めるやビックリ。トラックを2両連結して引っ張っているトレーラートラックは見たことがありますが、オーストラリア、3両連結のロードトレインが走っているのです。なかなか追い越すことができません。グーンと加速して運転席まで近づくや、運転席のトラック運転手、ニコニコ笑いながら大きく手を振って挨拶してくれました。

「オーストラリア、いいねー。皆、ゆったり運転してて」

「そうだね。タクシーのお客さんも、皆、助手席に乗ってるしね」

kita21203  次第と太陽が傾き始めた頃、集合地のクロコダイルセンターに到着しました。三々五々集まってくるレースカーを待っている間、レース中に見ることが無かったクロコちゃんとご対面。まったく無愛想で動きません。口でも開けてみたらって脅してみても、じっとしています。これじゃレース中、川岸にいたとしても、わかりませんね。

 ここからゴールのホテルまでは、パトカーに先導され、コンボイを組んで走ることになりました。ヘッドライトにルーフライトも点灯し、ちょっと恥ずかしい派手な格好になって、まるで凱旋パレードのようです。沿道の方々が「ヤー、お帰り」って感じで手を振ってくれます。次第にダーウィンの中心に近づきました。照明された道路、立体交差、モダンなオフィスビル・・・次第に文明の中へと舞い戻っていきます。

 ダイアモンド・ビーチ・ホテルに着きました。歓声と拍手、フラッシュライトが眩しく焚かれる中、「You have made it !(やったぜ)」と書かれたゴールの下をくぐります。

 ヒデと硬い握手をし、ヤンと肩を抱きしめあい。カールの頬を押さえました。ブラジルチームは小躍りしています。ビールで乾杯! ゴクンと一口呑むや、皆がビールをかけ始めました。頭から流れてくるビールが塩辛い。

 豪州チームのロンと抱き合ったら、彼が言いました。

KITA、シャツを交換しよう!

「ヤー、交換だ!」

 埃に汚れ、汗臭いシャツを脱ぎます。

kita21204  毎日聞いた、ハンドマイクのアナウンスが始まりました。

「コホン!・・・エー、皆さん。今から最後のアナウンスを行ないます。・・・盛り上がってますから、予定より早く、今この場でキャメルトロフィーの優勝者を発表します!」

どよめきが上がります。

「ウイナー(勝利者)・・・フランス!」

 どよめきに拍手が加わりました。仏国の怪我をしたジャックとミッシェルが前面に出て行き、選手たちが仏国国家ラ・マルセイエーズを歌う中、二人にキャメルトロフィーが渡されたのでした。

 北、ラ・マルセイエーズを歌えませんでした。でも、他国の国家を一緒に歌っている仲間に感動して、それ以来、色々な国の国家を覚えようと努力しています。

 キャメルトロフィーは、毎年開催地が変わり、トロフィーも違います。今回は高さ40cmほどのオーストラリアの形をしたプラスチックの箱で、その何に砂が入ってます。今回のキャメルトロフィーとは、太陽に焼かれた草原の赤い砂の事だったのですね。

kita21205  記念写真を撮るのだと、仏国の二人がレースカーに乗り込みました。そして途中で割れて無くなったフロントガラスの先にトロフィーを突き上げたのでした。

 レース後半、仏国チームはゴーグルをしてました。自然の真中に行く時はゴーグルが役に立ちます。特に砂漠ではフロントガラスが割れなくても、風が吹く中、床下にもぐって修理するときには必須です。ゴーグル無しでは何もできなくなります。

 部屋に入り、シャワーを浴びました。連日の汗と埃で体から泥のような茶色い水が流れますし、シャンプーもなかなか泡が立ちません。髭をそり、とっておきのシャツを身に付けると、体は最高に爽やかなのですが、心の中は何故かポッカリと穴が開いたような気分です。自然へのホームシックなのでしょうか。

ディナーパーティーに出向きました。集まった選手を見てついニヤッ。皆、端正な出で立ちで、今までとまったく違う都会人の顔をしているのです。野生人の方が個性的なんですがね。そんなことを感じながら分厚いステーキを口にほうばり、モグモグやってると女性ダンシングチームのショーが始まって、思わず肉の塊をゴックン。

結局、日本チームは14カ国中、6位でした。

夜中の午前1時、柔らかなベッドに転がり込んだのですが、なかなか寝られそうにありません。ビールを片手に一人でホテルの庭に出てみました。ブーゲンビリアに囲まれた長椅子に寝そべり、ビールを舐めながら芝生の先に並んでいる汚れたレースカーを眺めていました。

レースカーの上には満天の星が輝いています。体と頭の力を抜いてボーと視点を遠くにしていると、宇宙が大きく体を包み込み、地球の回転がゆっくりと始まります。遠くから風のような地球の動く音がゴーッと聞こえてきました。

kita21206ブーゲンビリアの横に人影が見えました。微笑んでいます。・・・家内です。

「アレ! いつここに来たの?」

「フフフッ・・・」

 彼女がゆっくりと長椅子の横にやってきました。椅子の横にひざまづくと、胸の上に腕を重ね、頬をそっと腕の中に置きました。ブーゲンビリアの香りの中、微かに家内の香りがします。

 夢のような時が、ゆっくりと過ぎていくのでした。

 

 

 長い間、お付き合い下さり有難う御座いました。特にコメントを頂いた方々には心から感謝しています。車って素晴らしいですね。人の力では行けない場所へ簡単に連れて行ってくれます。皆様も安全で楽しいカーライフを。

            完

text by 北 | 2005.09.08 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (32) | トラックバック (0)

September 01, 2005

第11回:フライイング・ダッチマン VS 神風キッド

自然の真中を走る by 北

 

kita21101  ゴールのダーウィンまであと2日です。最後のキャンプ地ローパーバーへ向かって450Kmの道程を走り抜かなくてはなりません。昨日までのブッシュとは異なり、低い山脈の麓を越えるので緑が濃くなっています。その森の中に太陽の熱で赤く変色した一本のオフロードが北西へ向かって緩やかに蛇行しながら続き、コンボイ組んだキャメルトロフィーの一行が時速120Kmで高速走行をしました。コンボイと言っても高速走行なので車間は広くなり、埃がモウモウと立ち上がっています。

既にクックタウンを出発して13日目。レースカーは色々な損傷を受けていますし、ドライバーも疲労が蓄積して行動力と判断力が少しずつ低下しています。

午後5時、太陽が大きく西へ傾き、進行方向の地平近くに降りてきました。単調な高速走行の中、注意力が途切れそうな時間帯に正面からの直射日光ですから危ない状況です。

突然、目の前で大きな砂煙が上がりました。一瞬の出来事にトロンとしていた目がカッと開き、アドレナリンが一気に噴出します。

「ヤバイ! 車が転んだ!」

「止まれー!」

 急停車。でも地面は目の細かい土ですから急には止まれず、ザザーと車を滑らせながらブレーキを掛けます。後からドシンと追突されました。

 3台前を走っていたプレスカーが逆さまに転倒したのです。実はこのシーン、バックナンバーに載っています。詳しくは「風が吹くと車が壊れる、第9回:転がる、車と三角板」をご覧下さい。

kita21102 キャメルトロフィーに使用した山吹色のランドローバー・ディフェンダー80110、屋根のキャリアにサンドラダーや荷物を乗せているので意外と重心が高くなっています。それにどうもランドローバーの足回り、高速走行よりも泥濘地や砂漠の走破性能を重視して設計されているようなのです。障害物を乗り越えるための地上最低高は高く、コイルスプリングもやや柔らかめの大きなストロークを持っているので、ギャップや岩場を越そうとするとタイヤがクニャーという感じで地面に追従し、ヌメヌメと荒地を走り抜けます。

 その代わり、高速走行になるとロールが激しくなります。カーブに入るやグワンと大きく外側に傾き、カーブを出るとその揺り返しがボワンと逆方向に発生します。なんだか波に揺られる小船に乗っている感じです。

 アフリカや東南アジアの自然の真中で生活するには、悪路走破性の高いランドローバーは、とっても便利な車です。でも悪路の少ない日本や欧米では、やや高速性能に欠けるってんで、先進国への輸出車は足回りを硬くしているそうなのですね。

キャメルトロフィーに使用したランドローバーは、悪路用の足回り設定になっていますから、高い重心も影響して高速走行で転んでしまったのでしょう。

高速走行に徹するパリダカの場合は逆です。パリダカでは砂丘越えもありますが、ほとんどが平らな土漠を高速で走りぬけますから、足回りを硬くしておきます。

バネのレートを一段硬めにしておいて、普段は1本のショック(ショックアブソーバー)を2本にします。かなり乗り心地は悪くなるのですが、その設定でオフロードを高速で走ると意外にも地面のガタガタにうまく合うのですね。それとショック、負担が大きいので2本にして容量を倍にすれば、ショックが抜けてダメになる可能性が低くなります。

でもパリダカ、ジャンプをしてしまうのでショックに違った問題が生じます。ジャンプして空中にいる間、ホーシングとタイヤはショックでぶら下がる状態になっています。それを何度も繰り返すとショック、引っ張られて千切れてしまうのです。ですからパリダカでは、ショックの最大伸び巾にまで広がらないようにフレームからホーシングに吊りベルトを付け、ジャンプした時にホーシングをベルトでぶら下げるようにしています。

なんて夢中で話し込んでしまうと、家内、

「あなた・・・そんなオタク話、面白くありませんよ!」

「やっぱりねー・・・ゴメン

kita21103  話をキャメルトロフィーに戻します。

結局、スペインのミゲーレが転倒させたプレスカー、クシャクシャの顔になってしまったのですが、元に戻してレース続行です。

レース最終日、ローパーバー南方30Kmにあるホジソン川で最終タスクを終え、キャメルトロフィーのゴール、ダーウィンまでの645Kmを自由に走ることになりました。その時のお話です。

 穏やかに上下する丘陵地を抜け、山岳地帯から平地に降りてきました。今まで茶色だったブッシュの穂先が白に変わり、草の背が低くなりました。道は相変わらず埃だらけ。前方のレースカーに近づくと、埃でまったく道が見えなくなるので接近できません。

コンボイを解かれたレースカー、スピードを上げて草原の一本道を走ります。その時でした。バックミラーに後続のレースカーが見え、次第に接近してくるのです。

「後ろのチーム、やけに近づいて来たな」

「埃で真っ白になってしまうのに?」

ヒデと不思議な後続車の話をしていると、その車、一気に日本チームに追い付き、パッシングを始めました。

「何だー! 後ろから、まくってるぞ」

「クソー、誰だか知らんが、レース仕掛けてんだ。負けるな! 北さん」

「ヨッシ! 抜かせるものか」

 一気に1対1のレース開始です。グンとアクセルを踏み込むや、ボワンボワンと車体が跳ね上がり、荷物室のナベや工具がガシャガシャとうるさい音を発てます。やっぱりパリダカ仕様のラリーカーとは違います。やけにフワフワと車体が上下し、ちょうどモーターボートで海の波を乗り上げている感じです。

 大きなカーブに差し掛かりました。このままでは転倒したミゲーレの二の舞になるとブレーキを掛けたのですが、そこは素人、かなり減速させてしまい後続車が並んでしまいました。各車、フェンダーの側面に国旗が付いてます。見ると、赤・白・青です。

「おかしいな、フランスのジャック達、穏やか奴なのにどうしたんだろう?」

「フム・・・違う! 横に赤・白・青はオランダだ!」

「エッ・・・フライイング・ダッチマン!」

kita21104 実はオランダチーム、走り屋のスピード狂なのです。という訳で「フライイング・ダッチマン」という、あだ名が付いていて、国旗の横に英語でいたずら書きされています。意味は「さまよえるオランダ船(幽霊船)」 この幽霊船、黒い船体に真っ赤な帆を上げて、嵐の中を飛ぶように早く走るのだそうです。そして、その幽霊船を見た船乗りは、二度と海から戻ってこられなくなるという、恐ろしいもの。というので「カッ飛びオランダ」って感じのあだ名です。

 日本チームにも、あだ名がフェンダーに書かれています。「KAMIKAZEKID(神風キッド)」 日本チーム、フレームを曲げてしまうほど派手にジャンプしたり、谷に突っ込んだり。というので、ベルギーのクリスに書かれてしまいました。 (写真をポップ・アップしてみて下さい。地面で跳ねているのはイナゴ。空を飛んでるのは、そのイナゴを食べようとする鳥。イナゴの異常発生、初めて見ました)

 「フライイング・ダッチマン」 「神風キッド」の戦いだ。なんて言ってたら、さすがのオランダチーム、グンと加速して真横に並びました。そして何か叫びました。

「ダッチマン、何か叫んでるぞ?」

「何だ?・・・STOP・・・止まれだって」

「レースじゃない。何かを知らせに来たんだ!」

オランダチーム、走るのが速いので、ちょくちょく伝令役をやってます。

急ブレーキ! ザザザーとブレーキングするや、後ろから車の立ち上げた埃がモワーッと押し寄せてきました。目の前が真っ白で、その靄の中にオランダチームのブレーキライトだけが光っていました。

kita21105  オランダチームのヤンが駆け寄ってきました。

「どうした?」

「ジャパン、お前達、危ないぞ。前輪がフラついてる」

「エッ・・・この車が!」

 タイヤを調べると、左前輪のボルトが完全に緩んでグラグラになっています。そういえば、レースが始まってまもない頃、タイヤに傷を付けたので安全のためスペアタイヤと交換したのです。きっとその時の締め付けが甘く、2週間のオフロード走行で緩んでしまったのでしょう。もし、オランダチームが教えてくれなければ、前輪は完全に吹き飛んでしまい、皆さんサヨウナラってことになってしまったに違いありません。

 

 ウインチワイヤーが切れ、フックで足を怪我した米国チーム。ジャッキの鉄パイプで気絶した仏国チーム。クリークでレースカーに潰されそうになった豪州チーム。そして最後は、死んでしまった日本チーム、・・・そんな事にならなくて良かった。

 究極の冒険パックツアーだ、などと茶化していたのですが、やっぱり危ない冒険レース。タイヤのボルトと気を引き締めなおして、ゴールのダーウィンまでもう少しです。

       (続く)

text by 北 | 2005.09.01 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (8) | トラックバック (0)

August 25, 2005

第10回:岩陰からトカゲが睨みつける

自然の真中を走る by 北

 

kita21001 キャメルトロフィー・オーストラリアには多様なステージがありました。出発したクックタウンからミッシェル川周辺までは、ユーカリ林の中、埃っぽいブッシュが一面に生えていました。岩場の小クリークを渡るタスクが実施されたレイチャード川周辺は、気温が上がり乾燥しているせいか、植生も背の低い草原です。さらに内陸へ入ると土獏へと変化します。そこから北へ向かうとカーペンタリア湾に近づき、トロピカルな風景へと変わっていきました。

乾燥地帯のレイチャード川からバークタウンを通過し、さらに350Km先のウーラゴラングまで、土獏の道を西へ向かって時速100Kmで走り抜け、そのウーラゴラングから北上するとカーペンタリア湾です。 

 

オーストラリア西岸のクックタウンを出発して10日目、キャメルトロフィー・オーストラリア3200Kmの行程中、もっとも険しく美しいカーペンタリア湾沿いを鈍い山吹色をした24台のローバーがゆっくりと西へ向かいました。背の高さもあるブッシュが大地を一面に覆い、幾重にも重なるユーカリの木々が行く手を遮ります。細く痩せたユウカリの木が天に向かって真直ぐ立ち並び、抜けるような青い空から太陽がジーンと音を立てて大地に降り注いでいます。

岩は太陽の白さに染まり、コントラストの強い岩陰からトカゲが静かな午後を邪魔されたとばかりに、私達を睨みつけていました。風は熱く、時折漂うユーカリの香りが暑さを一層刺激的にします。

フッと風の中に潮の香りを感じました。カーペンタリア湾が近いのでしょう。植生もシュロやパンダナスといったトロピカルな姿に変わってきました。 

 

kita21002レースカー、クックタウンを出発した時は、皆同じ条件だったのですが、ここに至って各チーム、何らかの損傷を受けています。デフの調子の悪いのはベルギー。マレーシアもトランスミッションのトラブルがあるようです。フランスはフロントガラスにヒビが入っています。そして日本チーム、谷にドシンと突っ込むことが多くフレームが軽く反ってしまったようで、ボディーが歪んでしまいました。

ということで、一見同じ様に見えるランドローバー、荒れた大地を同じペースで走ることができません。意外に簡単な溝でスタックするレースカーが出始めたのです。

「オーイ待ってくれー。スタックだー」

「オイオイ、まただよ。イタリアチーム、センターデフの調子が悪いみたい。しょうがない引っ張ってやるか」

 てな具合で、病気持ちと言うか、トラブル持ちのレースカーを牽引しながら走ります。その場限りのスタックならばウインチで引っ張ることもできるのですが、連続してスタックが発生するので、トーロープ(牽引ロープ)で引っ張りながら難所を乗り越えます。 

 

 昔の牽引ロープは、何でもない布ベルトだったので、一気に引っぱるとガックンと強い衝撃がありました。でも今のトーロープは、中にゴムが入っているので、その衝撃が発生しません。このジワーと引っ張り力が伝わる方法、牽引ではとても有効なんですね。ガクンと衝撃的に引っ張ると、前を走る牽引車へ急な力が一瞬に加わり、一緒にスタックしてしまうのですが、引っ張り力をゴムで分散すると、力を後続車に確実に伝えることができます。

 牽引車がバオーンと走り始めると、トーロープがギュィーンと伸びて、後続車、フラフラって感じで一緒に着いてきます。

  

 ヒルクライム(登坂)も似ています。バオーンと力を込めて助走し、そのまま坂の途中でもバオーンとを高いトルクを加えてスリップさせるのは、登坂の素人です。坂道のプロは、坂を登り始めると何となく、ヨレヨレ・アレアレと飄々とした感じで坂を登ってしまいます。タイヤに加わるトルクをスリップするギリギリのところでコントロールするのですね。

ということで、自然の真中では一気に全力を出し切るよりも、ジワーと力を分散して加えるほうが旨くいくことが多いようです。もちろん、これは車に限ったことではなく、人間にも同じことが言えます。力の分散とバランス。そしていざとなった時の集中力。何となく頑張り過ぎない態勢。どうもこの辺りが自然の真中でのコツかな、なんて言うと・・・家内、

「あなた、我が家は自然の真中じゃありません! もっと力入れて家事、手伝ってよ」

 だって。いやはや、グータラの理由付けも結構大変です(笑)。

  

kita21003 夕方の4時、コルバート川へ着きました。夕方といっても、かなり西へ来たので夕暮れが遅くなって、まだ昼間です。それまでの川は黄色に濁っていたのですが、コルバート川、透明で水量があり、川面に夕日がキラキラと輝いてとても綺麗です。まるでオアシス。

 皆が、埃だらけのシャツを脱ぎ捨て、一斉に川へ飛び込みました。ポッコリと川に浮かんで透けるような青空を眺めると、街から数百キロ離れた川辺、この自然のど真中を知っている人はいるのだろうか、などと考えてしまいました。 

 

 フッと私の足を何かが触りました。アレッと思うとまた触られます。ボコッと水にもぐって眺めると。 沢山の魚が泳いでいるのです。まったく逃げようとしません。凄い! 魚を手掴みできそうです。きっと魚達、人間を知らないのでしょう。

 そんな無垢な魚と戯れていると、大きな魚がやってきました。

「ン・・・? 何だ、やけに大きな魚だな」

「きっとホワイトフィッシュだよ」

 一緒にプカプカ浮かんでいた独国のピーターが答えました。

「フーン、そんな魚、知らないな。ちょっと見てみよう・・・」

 なんて言いながら川の中を覗いてビックリ。慌てて溺れそうになりました。やって来たのは、1mを越えるサメなのです。

「ヒョエー・・・ジョウズだー!」

「まさか、川にいる訳ないだろー・・・ドレドレ・・・ゲー!」

「なんだ、この川は?」

 水を舐めて解りました。しょっぱいのです。コルバート川、海に近くて満潮に乗って海の魚が入り込んでいたのですね。 

 

kita21004   結局、夕暮れが迫る頃、競技委員のジョンが90cm程のバラマンディーを3匹釣ってきました。淡水性のバラマンディーは保護されているのですが、海洋性のものは捕獲、食用が許可されているので、その夜はバラマンディー・パーティーです。

kita21005  満天の星空に向かって焚き火の煙がたち昇る中、回ってきたウイスキーをグビッとやって、焼き上がったバラマンディーを口に放り込むと、もう最高。ほど良く疲れた筋肉と脳味噌がダラーとして、胃から幸せが満ち溢れてきます。

 

 豪州チームのグレンが隣に座っていたので、尋ねてみました。

「グレン、南の夜空は初めてなんだけど、南極はどうやって見つけるの?」

「ヒック(酔)・・・よかいや、南極はたいな、南十字星の長かとこをたい、3倍したところにあるとよう」

kita21006 豪州英語、くせがあります。アイやオウの発音が多いので、なんだか博多弁に似ている感じがします。

「なるほどねー。ところで、南十字星はどうやって見つけるの」

「南十字星・・・そりゃー簡単ばい。ホレ!ここに在るッたい」

 酔っぱらったグレン、ニヤニヤ笑いながら、自分のシャツに縫いつけられた豪州の国旗を指差します。ジッと覗き込んで見ると、そこには小さな南十字星が輝いていました。

  

kita21007 翌朝、カンタベリー湾のノーザンブッシュを離れるため、南西に進路を取り出発しました。所々に出現する大きな絶壁を迂回して、岩の上を縫うように走ります。気温は高いのですが海からの風が心地よく吹いています。空には、モコッと独立した雲が一列に並び、北東から南西に連続して連なっていました。日本では見た事のない、南半球の大陸的な雲です。

丘陵地を越え平地に戻るにつれ、次第とスピードが上がります。残るは3日。ゴールのダーウィンへ向かって、色々な損傷を持つレースカーの一群が西へ向かって時速100Kmで驀進したのでした。でも疲れているのは車だけではありません。ドライバーも疲れが蓄積しています。オフロードの高速走行、以外な事故が発生し始めました。

(続く)

text by 北 | 2005.08.25 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (3) | トラックバック (0)

August 19, 2005

第9回:ドライビング・タスク

自然の真中を走る by 北

 

ゴムボートに乗せて、すべてのレースカーがミッシェル川を渡り終えたのは午後5時を過ぎた頃でした。朝から一日中、28台の車を押したり引っ張ったりして川を渡したので、皆、疲れてしまいました。ヤレヤレと一息付いているとハンドスピーカーのアナウンスです。

「今から、第6回目のタスク(課題)を実施します」

「エー、タスクやるの・・・もう疲れたよー」

前日、対岸でドライビング・タスクを一つこなし、もうここでは無いだろうと思っていたので不意をつかれました。疲れた上に加えられるタスク、主催者、結構意地悪です

kita20901  今までのタスクは、川を走ったり、泥の中を脱出することが多かったのですが、今回のタスクはミッシェル川の河川敷に広がる砂地で行われます。

 まず、各国のレースカー14台が川の中に入り、スタック(進退不能)状態にさせられます。そして、ヨーイドンで、そのスタックから脱出するのです。早く脱出できれば高得点を得る事ができ、30分を超えると失格で無得点になります。

疲れたー、などと呟いていたのですが、タスクの準備が進むや次第と闘争心が沸いてきました。やっぱりレースですから、他のチームには負たくありません。

 今回のタスク、ちょっと頭を使います。砂地で車が半分水の中に入っているので、サンドラダーだけで脱出するのは難しいかな? でもウインチを使うには砂地が広すぎてアンカーになる木や岩が無いので、どうしたものかと悩んでいると、スタートのホーンがパフォ――って鳴らされました。

 とりあえずジャッキで車体を上げます。タイヤの下にサンドラーダーを轢くのです。もし、サンドラダーだけでレースカーを動かすことができれば儲けもの。早く脱出できるのですから、多くのチームが、まずはサンドラダーを使って脱出しようと試みました。でも、結局それは無理。水の中、浮力のせいかサンドラダーでは、まったく動きません。

kita20902そこで、サンドラダーと一緒に砂地へウインチのアンカーを作ることにしました。ヒデが氷に穴を開けるアイス・オーガーのような大きなネジ状のアンカーを20m程先の砂地に埋め込みます。本来は硬い土に埋め込むためのアンカー、砂に有効なのか判断が難しいところ。うまくいくのだろうか。

 ところが、横を見ると米国チームのフランク、変なことをやってます。砂地に大きな穴を掘っているのです。何やら落とし穴を作っている感じ。

――何をアンカーにするつもりだろう・・・自分が穴に入るのかな?

なんて思っていると、今度は同僚のカールがスペアタイアを外しにかかりました。なるほど、タイヤを砂の奥深くに埋めてそれをアンカーにするつもりです。

日本チーム、サンドラダーとウインチの準備ができました。既に20分ほど経過してますが、ここで脱出に成功すれば高得点が取れます。さあ、一気に進んでくれ!

ウインチの弛みを取り、ワーヤーをピーンと張りました。そして、反動をつけるようにジワッ、ジワッとタイヤのトルクを上げながら、一緒にウインチを回します。ググッとローバーが動き始めた、その時でした・・・ウインチのアンカー、クニャ―って砂の中から頭を出し、とても軟弱にヘロヘロって感じで抜けてしまったのです。

「クソッ! このアンカー、砂にはまったく効かないぞ」

「アーア、アイデア倒れだ・・・他のアンカーに変えなくっちゃ」

 でも、時間があまりありません。そして、横を見ると・・・。

kita20903  皆よりも遅れて、砂に大きな落とし穴を作っていた米国チーム、タイヤを埋めたアンカーが出来上がりました。簡単なアンカーを作って失敗するチームが続出する中、米国チームがウイ――ンとウインチを巻き込み、バオーとエンジンを吹かすや、一気に水の中からレースカーが上がってきたのでした。

「ガハハハッ・・・諸君、お先に!」

フランクとカールが、皆に手を振り、大笑いしながらゴールへと走っていきます。そして、同じように時間を使ってタイヤを砂に埋めたオランダチームも、脱出に成功です。

「アーア、急がば回れって、このことだよな」

なんて呟くと、パフォ――と、終了の合図。残念と思いきや、やや離れた一台のレースカーに皆が駆け寄っています。

「どうしたんだろう、何かあったのかな」

「アッ! メディカル・カーが走ってくる」

 キャメルトロフィー、オフィシャル・カーの中にメディカル・カー、メカニック・カーがいます。メディカル・カー、医師のハーウィック先生が乗っていて、車には簡単な手術設備を搭載しています。そして、もし重病や大怪我が発生した場合は、双発の飛行機がキャメルトロフィーの50km圏域で待機していて、いつでも最寄の救急病院に運んでくれることになっているのです。

 パリダカもそうですが、こういう野蛮な冒険レース、サポート体制がしっかりしていないと安心できませんよね。

kita20904 北とヒデも皆の所へ走って行きました。すると仏国チームのジャックが頭から血を流して倒れています。話を聞くと、ジャッキのレバーが跳ね返って、ジャックの頭を直撃したのだそうです。そのレバー、鉄パイプでできていますから、かなりの打撃だったはず。

大丈夫だろうかと心配していると、以前ジャックと口論をしていたベルギーのジェフリがブラリとやってきて、軽い口調で言いました。

「大丈夫さ、奴、ガチガチの石頭だから」

kita20905キャメルトロフィーのタスク、色々な種類がありました。夜中に指示書が渡されて、満天の星空の下を走り抜けるナイト・オリエンテーリング。登坂を早さだけで競うヒルクライム。川を渡るリバークロッシング。そして以外だったのが、巾1.5mのクリークを渡るタスクです。

人が簡単にジャンプできる小さな溝なのですが、そこを車で渡りなさいというのです。方法は橋を掛けることになります。もし4本の丸太があれば、2本を1組にロープで結び、2組を車軸の巾に設置すれば、車が渡れる橋を作ることができます。この丸太橋、冬のバーミンガムで練習したのですが、2本の丸太の間にタイヤが挟まって、意外とうまく走れます。

でもタスクが行われたレイチャード川の小さな支流、岩場で橋の材料がありません。仕方なくサンドラダーを2枚重ねてクリークに渡し、その上を走るのですが、サンドラダー、単なるジュラルミンの板ですから、グニャッと曲がってしまいます。その曲がってしまうサンドラダーを岩場のどこに架けるか、そこがコツなんですね。

kita20906  英国チームは、奇抜なアイデアで勝負してきました。各レースカー、スペアタイヤを2本持っているのですが、それをクリークに落とし込み、その上にサンドラダーを架けたのです。一見、グッドアイデア。

「なるほどねー、タイヤをクリークに引っ掛けようってことか」

と感心したのですが、結果は失敗。タイヤの径がクリークより小さすぎて沈んでしまい、英国のレースカー、クリークに落っこちてしまいました。

 落ちると大変です。相手は岩なので、車体の裏をゴッチンと打ち、ガリガリと擦る事になって、エンジン・パンを潰したり、マフラーを無くしたり、デフを割ったりと、色んな部品が損傷してしまいます。

「アララー・・・英国チーム、車、壊しちゃったよ」

「これじゃ、リタイアでサヨナラだな」

 

kita20907競争相手が1チームいなくなったと微笑んでいると、いつもキャメルトロフィーの最後を走っている、メカニカル・カーの技師、デリックとフレッドがやってきて、チョチョイト修理してしまいました。残念。

診療所と救急車(飛行機)、そして修理工場付きのレース。やっぱりキャメルトロフィーも究極の冒険パックツアーだったのですね(笑)。

 

          (続く)

text by 北 | 2005.08.19 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)

August 11, 2005

第8回:レースカー、ゴムボートで渡河

自然の真中を走る by 北

 

kita20801草原を走り抜け、クロコダイルの住む川を渡って、ミッシェル・リバーにたどり着きました。今までの川とは違い、大きな河です。川幅200300m。干ばつにも関わらず水域の巾も100mを超えています。

 夕暮れ、泥の中をウインチで脱出するドライビング・タスク(課題)を一つこなすと、主催者のアナウンスがありました。

「明朝は、このミッシェル・リバーを渡ります。大変な作業になりそうなので、今夜はゆっくりと休んで下さい。ちなみに、夜間の水浴びは禁止です。この川にはクロコダイルがいますから」

「エー、まさかこんな開けた川に・・・?」

 なんて悪態を付いてみるのですが、やっぱりクロコダイルが怖いので、誰も夜の水浴びをしようとはしません。

 赤い夕焼けがしだいに濃紺に変わり、無数の星が空いっぱいに輝き始めました。その天頂に小さな星がクロスした南十字星があります。南半球の夜空、星や星座がまったく解りません。見たことのない星空を眺めているうちに、同時刻、日本で私を待っている家内と子供は何をしているのかな、なんてマイホームを愛しく想っていると、何時の間にか深い眠りへと落ち込んでしまいました。

 静まったキャンプ地、焚火の残り火がチロチロと燃え、あたり一面に煙の香りが漂っています。

kita20802 早朝、日の出前に目が醒めました。早寝早起、自然の真中に出向くと生活のリズムが変わります。というより、本来の姿に戻るのでしょう。きちんと寝れ、お腹も減り、ウンコもしっかりと出ます。

「ヤー、朝飯だ」

 日本チームの朝食はいたって合理的です。夜のうちに翌日の飲料水と朝食を作っておきます。まず、多量の水を鍋に入れ、焚火で沸騰させるのですが、その際、朝食用の農協レトルト米を放り込んでおきます。すると、翌朝は安全な水とご飯ができていて、その生温かい水(お湯)で味噌汁を作り、イワシ缶を開け、梅干を添えると立派な日本男子の朝食の出来上がりです。

もちろん、残りの水(ぬるいお湯)には、色と匂い消しのためのお茶パックを投げ入れ、水筒に確保しておきます。

 朝のミーティングが始まりました。

「今日は、ここでミッシェル・リバーを渡ります」

皆がざわめきます。

「エッ・・・川は深いんだぞ、どうやって渡るの?」

「橋を架けるんじゃない」

「まさか・・・水に潜って走るんだよ」

 なんて言ってると、主催者、ジャジャーンとまだ膨らませていないゴムボートを出しました。

「ゴムボート?・・・これに乗せるの?」

 キャメルトロフィーのランドローバー、2トン以上ありますし、食料やキャンプ用具まで積んでいるので2.5トン以上、サポートのメカニカル・カーなんて3トンはゆうに越えていそうです。

kita20803 主催者の説明はこうです。

 まず、大型のゴムボートを2艘膨らまし、その2艘を横に連結します。そしてタイヤ受けのラダーを縦に2列並べてレースカーをその上の乗せようというのです。単純計算、1艘のボートが最大2トンの荷重を受けることになります。

 なる程・・・それは面白そう。車をゴムボートに乗せるなんて誰も経験したことないので、皆、興味深々です。

 まず、電動ポンプでボートに空気を入れます。結構、時間が掛かるのですが、まあこんなものだろうと作り上げると、ダメが出されました。予想以上に空気圧を高くしろと言われます。爆発しないだろうかと思える程パンパンに空気を入れないと、レースカーを乗せた時に船型が保たれないのだそうです。

 次は2艘のボートにアルミラダーを2本横に架け、ゴムボートを連結です。ずれたりすると川の途中で分解沈没してしまいますから、しっかりと固定します。さらに、その上へ車が乗り入れるための床付きアルミラダーを車軸の巾に合わせて縦に2本架けました。縦のアルミラダー、船尾の部分が跳ね上げ式になっていて、降ろすと地面に付き、そこからボートへ乗り込むことができます。

kita20804 輸送ゴムボート、単純ですが意外としっかり出来上がりました。

「フムー、アイデアはOK。でも、本当に沈まないのだろうか」

「ゴムだから、パンクしたらアウトだよね」

 なんて勝手な感想を呟きながらも、実験に1台乗っけてみるこにしました。まずは、出場国を代表し、主催地オーストラリア・チームのレースカーです。

 アルミラダーの跳ね上げが降ろされ、そこに豪州チームが前輪を乗せました。ボートのへさきがクンと上がります。さらに車が前進すると、ゴムボート、フニャッと変形してズルズルと前へ動き始めてしまいました。

 ボートの乗込み、失敗です。車が乗込もうとすると、ボートが前へ進んでしまいます。数人でロープを岸へ引っ張っているのですが、まったくの力不足。仕方ないので、レースカーでボートを固定することにしました。2台のレースカーがボートの上流と下流に位置し、ウインチでボートを岸へ引っ張ります。

 乗込み再挑戦。ウインチで引っ張っているせいか、ボートは動きません。でも反作用で船体がギューンと大きく変形します。なんとなく口元で風船を膨らませている感じで、皆が渋い顔になり、ちょっと横にそむけています。その時でした、

「バーーン!」 ドキッ!

 米国のフランクが両手を叩き、大きな声で叫びました。いたずらです。

「ビックリするじゃないか!」

嚇された面々、ニヤニヤしているフランクの肩をバカヤロー!って小突きます。まったく子供みたいだ、なんて。

kita20805 ボートの乗込み、やっと成功です。豪州チーム、微妙に前後のバランスを取ってボートの真中にレースカーを乗せました。そしてとりあえず、そのまま対岸へと渡ってみることにしたのです。川の途中、深い場所もあるので、5馬力の小さな船外エンジンを付けて出航です。

 8人程度がボートの左右を押しながら、岸を離れていきました。少しずつ川下へ流されます。そして足の届かない深さになると、皆、ボートの舷側に腰掛けました。そこからは船外エンジンで進むのですが、大失敗です。エンジンが小さすぎて、豪州チームを乗せた輸送ボート、どんどん下流へと流されていくのです。

「ヤバイ! 豪州チーム流れて行った」

「行き先、海かも」

「コリャー、やっぱりアイデア倒れの失敗だ。サヨーナラー」

皆が手を振っています。

 オーストラリアの大草原の真中をサラサラと流れるミッシェル・リバー。豪州チームは、ゆったりと自然の力に流されて、遠い遠い岸辺へ向かって漂流したのでありました。

 そして5馬力の船外エンジンを持ち込んだ主催者、ミッシェル・リバーの岸辺に座り込み、フーッと深いため息をつくと、それを見ていたクロコダイルがニヤッと笑って尻尾を振っていました。

kita20806 その後、結局、小さなエンジンよりも人力の方が早いということになり、皆で輸送ボートを押したり引っ張ったり。レースカー14台、オフィシャル・カー14台の計28台を半日かけて渡してしまいました。

 渡河が終わって、ベルギーのジェフリが一言。

「これって、車のレースなのかいな?」

text by 北 | 2005.08.11 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (0)

August 04, 2005

第7回:川を渡るとクロコダイル

自然の真中を走る by 北

  
kita20701 オーストラリア北部、ノーザンテリトリーのブッシュをユラユラと西へ向かって走ること6時間、埃だらけの小さなトレールに突き当たりました。
 地図によると、この道をさらに西へ向かって進めば今日の目的地ミッシェル川へたどり着けます。ユーカリの林が次第に開け、平らな草原へと変化していくようです。

 アメリカ・チームのフランクが提案しました。
「ここからは一本道だし、埃だらけになるから少し離れて走ろう。どうだい」
「それがいい、後塵にまみれて走るのは嫌だからね」
「それじゃ、途中で何度か橋のない川を渡らなければならないから、そこで一緒になるとしよう」
 と言うや、日、米、伊、マレーの各チーム、我先にランドローバーへ駆け込みます。皆、後ろを走りたくないのです。なにしろ、すごい埃が舞い上がりますから、より前方を走ろうとします。日本チーム、イタリアに続く2番手で発進です。
 ブッシュの中には道がないのですから、時速40Km程度のいたってゆったりとしたドライブだったのですが、トレールに出るや一気にスピードアップ。でも、道に大きな穴があったり、ワダチが乱れてたりしているので、それ程でもなく、時速70Km〜80Kmで埃をモウモウと立ち上げて走ります。

 本来、オーストラリア北部の3月は雨季なので、もっとドロドロとした道でなくてはならないのですが、その年は、まれに見る干ばつで大地が干上がっていたのだそうです。
 出発直前、ケアンズの放送局が嫌なことを言ってました。
「今年は大干ばつです。クリークや沼の水が少なくなり、クロコダイルの餌が少なくなっているので、人を襲う危険性が高まっています。そうした水辺に行く場合は充分気を付けて下さい」
 それを聞いた北とヒデ、ビビッた目付きで、
「エー、俺達そのクロコダイルの棲家に向かうんじゃないのかー」
「やめてくれよねー、そういう冗談を放送するのは・・・」

 こうしてやって来たのがクロコダイルの棲家。ユーカリ林にゴツゴツとした岩が重なり、小さな川が流れています。もちろん川に橋は掛かっていません。イタリアチームが川を前にして止まっていました。そこに、日、米、マレーの順に到着です。
「どうしたのジョルジョ? 何で川を渡らないの?」
「だって・・・見てごらんよ、そこの看板」
 と言われて、川岸に立てられた看板を眺めると・・・。
『注意。この川にはクロコダイルが住んでいます。水泳禁止!』
「ゲー、ここ、ク、クロコちゃんのお家なんだ」
「そう。この川の水深を調べるの・・・ちょっと怖いよな」
「ちょっとじゃなく・・・とても怖い、だよ」

kita20702  実は、橋のない川を渡る際には、事前に渡る場所の水深を知っておかなければなりません。ということは、まず最初に人が徒歩で渡って、車の渡河が可能か確認するのが鉄則なのです。でないと、最悪、川の流れと共に車も流れて「サヨーナラー」ってことになります。車って水に入ると結構、船のように浮いてしまいますから。(写真は別の川で渡河に失敗したベルギーチーム)

「誰が水深を確認する?」
「そりゃー、最初に着いたイタリアでしょう!」
「エー、それはないよ! そう・・・皆でくじ引きしよう」
 誰も川に入りたがりません。当然ですよね。口を大きく開けたクロコダイルが待っているかもしれないのですから。
 皆がジーッと探るように川を見つめています。川はサラサラとした流れで、それ程深くはなさそうです。もしかしたら、日、米、伊、マレー以外のチームが既に渡ってるので意外と簡単じゃないのかな、なんてことを考えていると、イタリアチーム、さっさとクジを作ってしまいました。
「さあ、クジだ。この川を調査して最初に渡るチームを決めよう」
「・・・」
 仕方ありません。誰かが最初に渡らなければならないのですから。
――ナムサン!・・・エッ!ゲッ!・・・ ウッソー!
 ジャパン、大当たりー!
「グッグッ・・・(涙)、ひどい!」

kita20703 北とヒデ、二人で川に入っていきました。水深はヒザ程度、それ程深くはありません。
内心、「なーんだ、大したことないな」なんて思っていると、川幅2/3あたりで水深が一気に深くなっています。ボコッ! ゲッ! 深い! お腹まで水に漬かってしまいました。
 緩やかな流れなのですが、お腹まで水に入ると水流を強く受けて身動きが取れません。そんな川の中でグズグズしていると、突然、川の奥から「ドッポーン」と何かが飛び込む音が聞こえました。一瞬にして体が硬直し、耳だけが異常に敏感になります。
 ヒデと目が合いました。お互いの目が引き攣って肩が震えています。思っていることは一緒。「ヤバイ!・・・クロコダイルかも!」

 岸の皆が片手を大きく回しながら、戻って来いと合図しています。急に心臓がバクバクして、息が上がります。
「だから嫌なんだよ!・・・こんな川・・・バカヤローー!」
 なんて叫びながら、必死で元の岸へ戻ろうとするのですが、水の中、なかなか抵抗が大きく進みません。スローモーションのような時が過ぎる中、映画で見たことがある口の大きなクロコダイルが後ろから襲ってきそうな気配に、北とヒデ、大パニックです。
 岸にたどり着くや、皆が心配そうな顔をしていました。
「ゼイゼイ、・・・何が飛び込んだの?」
「解らない、ただ、とても大きな音だったから、魚じゃないよ」
「それじゃ・・・ク、ク、(ゼイゼイ)クロコ(ゼイゼイ)ダイル(ゼイゼイ)?」
 非情にも、皆が同時にウンと頷いたのでした。

kita20704  さすがに、日本チームを先導車として最初に川渡りさせるのは酷だと思ったのでしょう。アメリカチームが最初に川を渡ることになりました。水深は問題ありません。後半が深くなっていますが、一気に走リ抜けば大丈夫。
 対岸に一台渡ってくれると気が楽です。何かトラブッても、対岸のウインチが使えますから。アメリカチームが渡河に成功し、2番手は私達、日本チームです。 北とヒデのランドローバーがゆっくりと川へ入っていきます。最初は水深が浅いので何も問題ありません。危ないのは流れが集中して深くなっている2/3以降です。
 深みに入りました。ここでアクセルを戻してはいけません。水中で急にアクセルを離すとエグゾースト・パイプからマフラーに水が逆流してエンストしてしまいます。水圧、結構大きいので、力ずくで水を掻き分ける感じでジワーっとアクセルを踏む込みます。でもトルクを上げ過ぎるとスリップしますし、水に漬かっているラジエター・ファンを破損するかもしれないので、トルクの掛け具合を見極めるのが大切です。

kita20705「頑張れ、もう少し!」
「行けーー!」
 なんて叫んでいると、エンジンガードがガスッ!って水中の岩に引っ掛かりました。でも、ここで怯んではいけません。グッとアクセルを踏み込んで水中の岩を乗り越えます。
 ガスッ、バオーン・・・ガスッ、ガスッ、ザザーー。水が一気にボンネットの上へ流れて来ました。キャメルトロフィー仕様のランドローバー、吸気シュノーケルを付けているので、この程度の水は大丈夫。対岸まで一気に水を掻き分け、走り抜いたのでした。(写真、シュノーケルです)

kita20706 今回は浅い川だったので、一気に進めましたが、深い川になると浮力が問題になります。車が水に浮いて進まなくなるので、そういう場合は室内に水を入れて車を重くします。でも水圧があるので、水の中に入ってからドアを開けることはできません。川に入る前にドアを少し開き、そこに木切れを挟んでドアを紐で結んで閉じておきます。そうすれば、深みに入ると水が室内に入って水中を走れるという訳です。

 干ばつで腹ぺこのクロコダイル。せっかく世界中からおいしいお肉がやってきたのに、鈍い山吹色の奇妙な車に乗ってばかりで、一向に襲うことができません。川の奥で目だけを水面に出して、ワイワイガヤガヤと叫ぶキャメルトロフィーの素人レーサー達を残念そうに眺めていたのでした。

             (続く)

text by 北 | 2005.08.04 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

July 28, 2005

第6回:ブッシュ・ドライブ

自然の真中を走る by 北

 

kita20601  前回まではジャングルの泥道についてのお話でした。今回からはステージをオーストラリアへ移し、キャメルトロフィーで経験したブッシュ・ドライブ(草原走行)の物語です。

ちょっと古いお話なのですが、第7回キャメルトロフィーは、オーストラリア北西部のクックタウンからダーウィンまで、クロコダイル・ダンディが住んでいるトロピカル・オーストラリアの3,200kmを走るレースでした。パリダカとは違ってスピードレースではありません。ルート上に12ヶ所のポイントがあって、そこで川を渡ったり、泥沼を脱出したりと、毎回異なるドライビング・タスク(課題)で腕を競うというものです。

参加したのは、世界14カ国から28名の素人ドライバー。日本からは北とヒデの2名が選ばれました。選ぶ? そうなんです。4〜5千人の応募者から2名を選ぶのですが、その選考会、結構、変なんですね。

レースは3月に行われたのですが、南半球ですから秋の始めという頃で、熱帯地域ですから夏が続いている3月です。ところが、最終国際選考会は、真冬のイギリス・バーミンガム。雪の中でジャングルやブッシュ走行の練習と審査が行われました。

「雪道なんて、オーストラリアに無いのになー」

「何だか南極探検の選考をしているみたいだ・・・まったく」

なんて悪口を言ってたら、運転技術は大したことないのに、口が達者だということで合格、って感じで選ばれてしまいました。

キャメルトロフィー、この「口が達者」結構大切なんですね。パリダカは、ナビゲーターがルート指示をブツブツとお経のように出し続けるのですが、それ以外は結構、黙々と走っています。でもキャメルトロフィーは、冗談やおしゃべりばっかり。とても和気藹々としたレースなのです。

トロピカル・オーストラリアのブッシュ、香りがします。ユウカリです。ささくれた白っぽい幹がヒョロッと立ち上がり、上の方に柳の親分のような葉っぱが付いていて、森全体が喉飴の健康的な感じです。樹冠が密集していないので太陽はキラキラと地面に降り注ぎ、背の高いカヤのような植物がうっそうと茂っています。もちろん、乾燥地域に近づくとブッシュの背丈も低くなり、最後には土漠になってしまいます。

 そんなブッシュから突然、ワラビー(小型のカンガルー)が飛び出してきたり、大きな赤カンガルーがノソーと立ち尽くしているのに出くわします。そのポワンとした姿、トトロそっくりです。

kita20602   早朝、キャンプを後にして、鈍い山吹色をしたランドローバー804台のコンボイを組みコンパスと地図を頼りにミッシェル川を目指しました。方位は西です。イタリア、マレーシア、アメリカ、日本。ドライビング・タスクになれば国別の戦いですが、今は共同で目的地へ向かうリエゾン(移動区間)です。でもブッシュの中、意外な罠が潜んでいるので、それほど簡単には進めません。

大地と植生と空が支配する自然の真中、穂先の赤いブッシュが一面に広がり、背の高いユーカリが幾重にも重なって立ち並んでいます。その隙間を縫うようにユラユラと前進します。道はありません。乾いたブッシュの穂が埃のように舞って、むせるような草の匂いがします。そして時折、ここが豪州であることを思い出させるように微かなユーカリの香りが漂ってくるのです。

 青い空へ飄々と突き出たユーカリの隙間から朝の光が線状にブッシュへ差し込み、コントラストの強い風景を作っていました。

 

ザワザワとブッシュをかき分けながら走ると、時折、鞭のような枝がボディーを引っかき、キュィーン・・・バチンとボディーを叩きます。それがフロントガラスに当たると割れることもあるので、こういう場所ではブッシュカッターが有効です。グリルガードから屋根のキャリアへワイヤーロープを掛け、フロントガラスを枝の鞭打ちから守ります。この取り付け、カラビナとターンバックルを使うととても簡単に装着できるので森の奥へ行く場合は便利かも。でも人間を引っ掛けると大変ですから一般道では無理ですよね。

ブッシュの中、地面が見えてないので、突然、岩や穴に突っ込んでしまい、前触れもなくハンドルがキックバックします。ハンドルの急なキックバック、親指をはじかれない様に注意です。フンフンって鼻歌交じりの気楽な片手運転っていう訳にはいきません。

また大きな穴にドシンと入ることもありますが、前車輪1本ならばそれほど問題にはなりません。でも両輪同時に細長いクリークなどへ落ち込むと大変です。フロントグリルが溝の対岸に突っ込んでガクンと停止。頭もガクンと前方に振られて、鞭打ち気分です。この両輪クリーク落し、前へ進めないのでバックするのですが、荷重が前輪に集中しているので後輪がスリップしてしまいますし、ウインチも土の中に埋まってますから簡単には脱出できなくなってしまいます。

そして、この両輪クリーク落し、何度も繰り返していると次第にホーシングが曲がって前輪がハの字形に開いてしまいます。

時々、都会でも車体を低くした、かっこいいスポーツカーがタイヤをハの字にしていますよね、どこかでブッシュ走行やったのかな?(笑)。

「草を掻き分けながら進むのって、処女地を走ってるようで気持いいねー」

「そう! ここ、まだ誰も来たことのない場所かもね、世界で始めてのルート」

 なんて言いながら、北とヒデ、少しばかり冒険者気分を味わいながら広大なブッシュを走っていると、前を走っていたマレーシアの車が完全に消えてしまいました。

「ン? どっちに行った?」

二人で左右をキョロキョロと見回すのですが、見当たりません。

「おかしいなー」「どこだ」

kita20603  なんて言ってると、目の前に突然現れました。マレーシア・チーム、大きなクリークにはまってしまい、みごとに逆立ちしてお腹を見せています。クリークに水の流れはなく、全体がブッシュで囲われていますから、深さが分らず、頭から落ち込んでしまったのでしょう。

ザイーニとリヨンが慌てて降りてきました。

「参ったー! 完全に逆立ちだ」

「コリャー自力で脱出できないな。ジャパン、後ろから引っ張り上げてよ」

「それじゃ今夜の晩飯、マレーシアの招待ね」

 パリダカは、ゴールするとフランス料理が待っているのですが、キャメルトロフィー、のんびり型のレースですから自分達で調理しなくてはなりません。キャンプの自炊、最初は楽しいのですが、疲れてくるとだんだん不精になっていきます。

一番楽なのは、招待を受けること。既にイタリアチームからスパゲティーの招待を受けました。日本チームは、農協レトルト米をご馳走したことがあったのですが、日本人にとって、ちょうど良い硬さのご飯も、他国の選手からはベトベトだって不評でした。

 穴に落ち込んだ車を助ける方法は二つあります。トウロープ(引き綱)で引っ張るか、ウインチで引き上げるか。落ち込んだ車、少しでもタイヤにトルクを掛けることができればトウロープでもいいのですが、逆さまに近くなると、トウロープでは無理。ウインチでゆっくりと引き上げることになります。

kita20604  ウインチ、本来は自分の脱出に使うのですが、他の車を引っ張る場合、自らを固定しなくてはなりません。でないと、じわじわと落ちこんだ車の方へ滑っていってミイラ取りがミイラになってしまいます。

 まず日本チームのローバーのお尻にワイヤーを付け、それを木に固定です。木にはツリープロテクター(布ベルト)を巻いて傷つけないようにしています。そして、前方の電動ウインチをW掛けで引っ張り上げるのです。W掛けって、動滑車を利用して引っ張り力を半減させる方法です。

 時間は倍になりますが、ウインチを焼き切ったり、車のフレームを損傷させないためにはこの方法がベストです。ゆっくりと、でも確実にマレーシア・チームが穴から引っ張り出されてきました。

kita20605  このウインチ、他にも沢山の使い道があります。曲がったステアリングロッドをウインチで引っ張って戻したり、薪を引っ張ったり、車を木にぶら下げたり?(これ・・・映画ブッシュマンでやってましたよね)

 でも、ウインチのワイヤー、強そうにみえますが、結構簡単にプッツンと切れるのです。多くは、ワイヤーをキンクさせたり、曲げ角度が小さい場合に起きています。ワイヤー、引張りには強いのですが、せん断に弱いようです。

 ミッシェル川に向かってブッシュの中をガサゴソと走ること半日、ラジエターに草の穂を一杯に詰め込んで、ややオーバーヒート気味になった4台のローバーは、フィーフィーと鳴くホイップバードと共に、自由で芳醇なブッシュの真中を走り抜けたのでした。

        (続く)

text by 北 | 2005.07.28 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

July 21, 2005

第5回:真夜中のゴール

自然の真中を走る by 北

 

kita2-0501 軟弱タイヤの3号車(ラガー)、やっとのことで坂道を皆で押し上げたのですが、またもや叫び声。

「ギャー!・・・取ってくれ〜〜!」

 普段は、オヤジギャグを連発している髭面のヒョウキン寛ちゃん、首筋をパタパタ叩きながら叫んでいます。

 皆が一斉に懐中電灯で照らすと、うなじに何やら黒いものが付いてました。

「寛ちゃん、そんなに動くなよ。見てあげるから」

「変な物が付いてるよー。早く取ってくれー! ヒック、ヒック」

 もう半分、泣いています。

 じっと首筋に目を凝らすと、その黒いもの・・・小さな芋虫です。大きなものは小指くらいまで膨らんでいます。

「ヒェー・・・・ヒ、ヒ、ヒルだー」

「蛭!」

 一同、蛭にビックリ。慌てて皆が自分の首筋をなで回し初めるや、

「ウワ―・・・俺にも蛭がくっ付いてる。・・・取ってくれー!」

「エーン・・・俺の足にもー」

 ダメだ! 一斉に見つかった蛭で一同パニックです。足をバタバタさせたり、首を叩いたり。するとリヨンが叫びました。

「ちょっと待って! そんなに無理して蛭を引っ張っちゃだめだよ。誰かタバコを持ってないか?」

 そして、タバコを吸えと言うのです。煙で燻すのだろうか、なんて思っていると、リヨンが蛭退治の方法を説明し始めました。

「蛭を無理に引っ張ると千切れて、牙が皮膚の内部に残ってしまい、そこが化膿する。蛭はこうやって取るんだよ」

 リヨン、タバコの灰を手の平にポンと落とすと、夜露を指につけて灰を水で溶かします。そして灰の塗り薬のようなものを指で蛭になすり付けると、蛭、小さくシュリンクして、ポトッて落ちました。

 なるほど、蛭はアルカリに弱いのです。

 

 普段は嫌われ、後ろめたい気分でタバコを吸っている喫煙者、この時ばかりは皆がお願いします。

「お願いです、どうかタバコを存分に吸って下さい。そして、その灰を私に・・・」

「フーン・・・タバコあっち行って吸え、なんて言わない?」

「言いません」

「車の中でも吸っていい?」

「もちろん」

 こうして喫煙者、皆に懇願されて堂々とタバコを吸えるようになったのでありました。

kita2-0502 蛭に襲われた原因、坂道で3号車のラガーを押そうと、泥道の脇でじっと待っている間にやられたようです。蛭には赤外線センサーが付いていて、自分の下に動物の熱を感知すると、木の上からポッテって落ちてくるのだそうです。(リヨンの説明)

 タバコの灰で蛭をシュリンクさせたら、そこにバンドエイドを貼っておきます。でも、なかなか出血が止まりません。蛭、動物を噛んだ際、何やら酵素らしき物を注入して血が固まらないようにしてしまうそうなのです。

 ジャングルの中、首に巻いたバンダナは伊達じゃないのですね。

 4台のコンボイ(隊列)、再度出発したのですが、夜のジャングルは、もうコリゴリだとばかりにスピードが上がっています。

 でもトラブル、こうした焦った場面で連続するんですよね。

 谷へ降りたり登ったりのウネウネとした上下動が、だんだん大きな周期へと変化して所々に湿地帯が出現し始めました。黒い森の影が少し遠くなり、カヤのような背の高い草におおわれた頃。

 助手席のユキオチャンが呟きました。

「北さん、何か変だよ。真直ぐ走ってないみたい」

「だよね。方位の変化が激しすぎる・・・もしかして」

「もしかして・・・何?」

「ミスコース。でもリヨンがリードしているのだから、間違いないと思うが」

 なんて話していると、オヤ?

「もしかして、ここ少し前に通ったんじゃない」

「そうだよな・・・道に迷ってるぞ」

 至急、前方の車を止めます。プッ、プッ、プ―――。事前に決めていた止まれのクラクションです。

 

 自然の真中で複数の車がコンボイを組む場合、基本的なルールがあります。運転者、常に後続車がバックミラーに映っているか確認しながら走ります。もしバックミラーに後続車が映ってなければ、車を減速・停止させて待たなくてはいけません。すべての車がこのルールを守れば、一台の迷子も発生しないはずなのです。

 日本ならば大したことではない迷子、自然の真中で迷子になると遭難の可能性が出てきます。

 それと、前の車に止まれを合図するクラクションも決めておきます。このクラクションが鳴ったらバックして、最終車輌の位置に集合です。

kita2-0505  でも、とても長いコンボイだと、なかなかうまく機能しません。キャメルトロフィーで中間の車が転倒した時は、オランダチームが伝令になり、フルスピードで前方車輌を止めに走りました。

 

 止まったコンボイ、先導車のリヨンが地図を持って降りてきました。彼にこっそりと話します。

「リヨン・・・道、間違えてない?」

「そうなんだよ、間違えてるみたい」

「そうか・・・でも、しばらくは皆に黙ってよう」

 とりあえず、皆には道に迷ったことを知らせません。ここで焦って、さらなるトラブルを作りたくありませんから。

「皆さん、小休止です。この先、トラやゾウが待ち伏せしているか偵察してきますから」

 リヨンとヒョウキン寛ちゃんが偵察(本当は道探し)に行きました。でも、マレーシア北部のジャングル、夜間、あまり一箇所に長居したくありません。実はこの地域、軍隊が管轄している理由の一つに武装ゲリラの鎮圧があったのです。肉食動物、蛭も怖いのですが、一番怖いのは武器を持った人間です。

「北さん・・・道に迷ったんじゃないの」

 怒る直前の哲ちゃんが、尋ねます。

「ン?・・・大丈夫。バッチリ。パーフェクトだよ」

 なんて訳のわからない返事でごまかしました。もう夜更け、お腹も減ってくる頃なのですが、緊張のせいか誰も食事のことを言いません。

 ジャングルの端に取り残された3台の車を漆黒の闇が包んでいました。

   

kita2-0503 そこから走ること20キロ、突然、ゴールが出現しました。まるでパリダカのゴールのようにゲートになっていて、その上には、大きな看板が出ています。

「ゴール! ジャングルツアー、到着おめでとう!」って書いてありました・・・なんてことは、ありませんよね。

 意味は解らなかったのですが、きっと、

「危険! この先、軍の管轄地域! 許可無く進入禁止! 武装ゲリラと蛭に注意!」

って書いてあるのでしょう。

 

リヨンが詰め所の兵士に、公的業務の熱帯雨林森林調査の終了を通告してる間、皆で大はしゃぎです。

「ヤッター!完走だー」(ヒョウキン3人組み)

「フウ・・・良かったわねー、無事で」(豊子さんと美保ちゃん)

「まったく、とんでもないルートだ・・・でもちょっと楽しかったかな」(怒号の哲ちゃん)

 

kita2-0504 喜ぶ素人ドライバー達。その後ろには広大なジャングルが広がっています。そして、ジャングルの奥からは、早く出て行け! とばかりに「ガオーーー」と野生動物の威嚇する鳴き声が上がったのでした。

 

       (ジャングル・ツアー 完)

text by 北 | 2005.07.21 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (0)

July 14, 2005

第4回:ジャングルに日は落ちて

自然の真中を走る by 北

  

マレーシア北部のジャングル、象のウンコと記念写真を撮ったりしているうちに、日が暮れてしまいました。急いで目的地のグアムサンに向かおうとするのですが、泥道運転の素人集団ですから、まったくスピードが上がりません。

kita20401 昼間でも危険なジャングルの泥道、夜になると、とても恐ろしい状況です。見える部分はヘッドライトが照らす赤い道だけ、左右の崖がどんなものかまったく分りません。

「北さん、絶対に崖へ落ちるなよ・・・可愛い娘が日本で待ってるんだからね」

「オウ、もちろんだ。こっちだって可愛い奥さんが・・・」

なんてウソを付いてると、ズルズルとスリップ。

「ヒョェ〜〜〜!」

 慌てないように、ちょっと加速しながらハンドルをクイッと当てると、ローバー、お尻をフラッと振って真直ぐに戻ります。

 

 それにしても前を走っている車、大丈夫だろうか? 一番スリップしているのは哲ちゃんが運転するラガー(3号車)です。

同乗者は、主婦の豊子さん、哲学者のじっ様、それと体力のある広ちゃんです。特に運転が下手と言う訳ではないのですが、ラガーのタイヤが良くありません。

 粘土質の強い泥の道では、タイヤの溝に泥が詰まってしまいます。ブロックパターンが大きな溝の広いタイヤだと、遠心力で泥が弾き飛ばされてしまうのですが、ラガーのタイヤ、オン・オフ兼用のシティータイプなので、泥のセルフ・クリーニングが充分ではないようです。泥が溝に詰まって、すぐにズルズルと滑ります。

キャメロンハイランドから出発して、かなり標高が低くなりました。赤い泥道、当初は下りのみだったのですが、次第に登りも混じるようになっています。グーン、ズルズルと滑りながら坂を下ると、谷底に丸太の橋です。ここが緊張の頂点。目をしっかりと開け、川に滑り落ちないように狭い橋の真ん中を狙って走りぬけます。谷の反対側には登り坂が続いていますから、スピードを落としすぎる訳にはいきません。橋の途中から一気に加速してトルクに乗せます。

   

そこは大きな谷でした。

3号車が丸太橋を渡るや、グワ―ンと加速して長い坂を登り始めました。赤いテールランプがユラユラと上昇し、坂を2/3ほど登ったあたりでしょうか、エンジン音はワーンと鳴っているのに、車がまったく動かなくなってしまいました。スリップしているのです。

「まずい! 哲ちゃん、ブレーキ踏むなよ。踏むと滑るぞ!・・・ア! アー、踏んじゃった」

 ラガー、斜めになったまま、ツ――と滑り始めました。

「危ない! 山へ突っ込め! 土壁へ当てろ!」

 でも、哲ちゃん恐怖でブレーキを踏んだままですから、完全にコントロールを失っています。そしてラガー、ザザーと一気に100mもありそうな崖へ向かってバックで滑っていきました。

「キャ――――!」

普段は冷静な豊子さんの甲高いの叫び声がジャングルに響き渡り、同時にギャ〜〜! ウォ〜〜ン! ゲッゲッゲッ・・・と正体の解らない鳴き声がジャングル中にこだましました。

「アー、ダメだ。落ちる!」

 

kita20402 ―――日本人4名死亡、ジャングルで無謀運転

 そんな新聞の見出しが脳裏に浮かび、しまったという鈍い衝動が胸を付いたその時でした。ラガー、崖の手前15cmで止まったのです。小さな木に引っ掛かっています。

崖に面した左から脱出できないので、右側から4人が脱出してきました。私達もそこまで走って駆け登ります。上からは待っていた2号車と1号車の皆が降りてきました。

「クソ!・・・誰だ、こんな企画を作った奴は!」

 哲ちゃん、またもや激怒です。豊子さんも顔面蒼白。

「・・・参ったな。でも哲ちゃん。何度も言うが、坂道で滑りだしたらブレーキはダメだよ!」

「ブレーキ掛けないで、じゃあ、どうするんだ!」

「登りで滑り始めたら、瞬時にバックへギアを入れて、エンジンブレーキで降りてこなくっちゃ、それでも滑ったらバックで少し加速だ」

「バーカーヤーローオーーー! 何で最初に教えないんだ!」(アレッ、2度目だ)

 バカヤロ―の大きな叫び声に、再度、鳥がギャ〜〜〜。

 泥の下り坂は、4輪駆動トランスファーのローレンジにトランスミッションの第1速を用い、滑り始めたら少し加速してステアリング・コントロールを確保します。それに対し、泥の登り坂は、ローレンジの第1速は使いません。トルクが大きすぎて必ずスリップになってしまうからです。登りは第2速か3速を用います。2速と3速の判断は、助走の距離、坂の傾斜、グリップの状況で決めますが、これは車によって違うので経験則で判断するしかありません。

 そして登り坂でスリップし始めたら、決してブレ―キングせず、即座にバックギアへ入れてステアリング・コントロールを保ったままエンジン・ブレーキで戻ってくるのです。

 それともう一つ。滑りやすい登り坂ではソーイング・ハンドルを用います。いわゆるユラユラ走行です。これには2つの効果があります。まずは、斜めに登ることになりますから、傾斜角度が低くなり登り易くなります。それと、切り替えしの時、タイヤのエッジで地面を引っ掛けることになりグリップが増すのです。ちょうどスキーのウェールデンと同じ原理です。

  

 皆にこんな話をしていると、哲学者のじっ様と女子大生の美穂ちゃん、二人で仲良く双眼鏡を並べてジャングルの闇を覗いています。・・・こういう時、運転免許を持ってないのも気楽でいいですね。

kita20403 さて、ラガーを坂の上まで上げます。電動ウインチが付いていれば一人でも登れるのですが、ありませんから皆で押し上げなければなりません。

 スタックが始まりそうな道沿いに皆が並びました。そこに哲ちゃんだけが乗ったラガーがワーンと登ってきます。止まってしまいそうなスピードになった頃、ピタッ、ピタッ、と人がラガーのお尻にくっ付き、力一杯押します。4人が押し始めるとラガー、何もなかった様にスルスルと坂を登っていきました。

 坂の上に辿り着いて、一段落。やれやれと思っていたら、また始まりました。

「ギャ―!・・・取ってくれ〜〜!」

ギャ〜〜〜、ギャ〜〜〜()

 

 やれやれ、また叫び声です。今度はヒョウキン寛ちゃん。何があったの?

                (続く)

text by 北 | 2005.07.14 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)

July 07, 2005

第3回:うん? こ(れ)は大きい

自然の真中を走る by 北

 

kita20301  新種の笹を探したり、川で遊んだりしたせいで予定よりも遅くなってしまいました。早く走らないと夜になってしまいます。昼は通過できても、夜になると走るのが難しくなること、パリダカやキャメルトロフィーで経験済みです。

 太陽がぐっと傾いた夕方、先頭を走っていた森林研究所のウォンさん達が車を止めて、路上の何かを見つめています。大きく手を振り上げて、こちらにオイデの合図をしました。

「何だろう、また笹の新種を見つけたのかな?」

「どうだろう・・・道の上に?」

 なんて話しながら、車を止めて皆でゾロゾロとウォンさんの回りに集まります。ウォンさんが泥の道の上を指差しました。

「何・・・これ?」

「・・・うん? これは大きい・・・ウンコだ!」

「ウンコ?・・・ウッソー、こんなに大きなウンコ始めてだよ」

 リヨンが木の枝を持ってきて、ほじくり返し始めました。まだ柔らかくて植物繊維の中に種のような黒いポツポツが入っています。

 ウォンさん曰く。

「これは、象の糞です。まだ排泄されて数時間じゃないでしょうか」

「エー! 象のウンコ・・・。数時間前、ここに象がいたんだー!」

「そう、野生動物は人の気配を感じると、すぐに逃げてしまうから」

 と、リヨンが付け加えました。

「皆さん、野生象の糞を見たこと無いだろうと思って、止めたのですよ・・・ハハハッ」

kita20302  皆が目を丸くして象のウンコをシゲシゲと眺めています。すると、オヤ? 寛ちゃんと巧ちゃん、広ちゃんの3人が何やらヒソヒソ話を始めました。そして3人・・・。

「ちょっと、ウンコと3人の記念写真が欲しいんだけど、撮ってくれない」

「もちろん。さあ、並んで」

 ところが3人、ウンコの後ろに並んで逆を向き、ズボンを下ろし始めたのです。そして、お尻を出すや、3人揃ってお尻をウンコに突き出しました。

「ウッソーーー!」

「ゲゲッーーー!」

 女子大生の美穂ちゃん、手で口を押さえています(押さえるの目でしょう)。一斉にフラッシュがパシッ、パシッと焚かれるや、森の中から最悪なものを見てしまったとばかりに鳥たちがギャ〜〜、ギャ〜〜と鳴き叫びました。

 突然のイベント、皆もガハハハッと大笑いです。(残念ながら写真を出せません)

 アウトドア、テントや男料理の話は多いのですが、さすがにウンコの話はあまり出てきません。でも、アウトドアのトイレ、結構ノウハウがあるんですよ。

 本当は、オフロード・ドライブのノウハウを紹介したかったのですが、今回は、ちょっと外れて野○ソのお話を。

 トイレットペーパーを片手に森の中へ出かける人は、野○ソの素人です。片手がペーパーで使えなくなるので、準備が大変。それに、もしペーパーを地面に落としたりすると、濡れて使えなくなったり、コロコロと転がってしまい、悲惨な結果を招いてしまいます。

kita20303  ということで、野○ソのプロは、写真のようなペーパーホルダーを作って、首から掛けています。枝を穴に差しこみ、両端を紐で結ぶだけです。これ絶品ですよ。両手が使え、汚れず、なくなったりしません。車に戻ったときも、そのままフックに掛ければ、車内でも使えます。是非お試しあれ。

 最高の野○ソ、それはなんと言っても砂漠です。チョットした砂のくぼみに腰を落とし、真平に続く地平線を眺めながら頑張ると、お尻にハルマッタンの風がサラサラと吹き付け、何とも言えない快感です。

 ペーパーを捨てるのも楽。終わって指を離すと、ペーパー、ファーと風に乗って砂漠の彼方に飛んでいきます。残ったウンコも砂をかければ、数時間でミイラになってしまい、数日で風と砂がウンコを埃へと分解してくれるのですから、まるで自然の水洗トイレって感じです。そして、何より虫が寄ってきません。

 

 それに対して、ジャングルの野○ソは大変です。やや隠れた場所へ向かうのですが、そういう場所には小動物や虫がいます。ヨッコラショって頑張ってウンコを出すや、蚊とアブが一斉に飛んできて、お尻を攻撃です。

 ジャングルでのコツは、その場をより早く脱出すること。1発目が出るや、すぐにそのまま前進します。ヨチヨチとアヒルのように45歩進むのです。蚊やアブが残されたウンコに夢中になっている間に、第2発目を放出。そして、またヨチヨチと前進。その繰り返しです。

 でも、この姿、他人に見られると結構恥ずかしいものがありますよね。その恥ずかしいお話です。

 キャメルトロフィーでの経験です。ミシェル川渡河の早朝、ちょっとした森影でこのアヒル前進型・野○ソを、ウーン、ヨチヨチ、ウーン、ヨチヨチとやっていると、横からベルギーチームのジェフリが同じように、ウーン、ヨチヨチとやってきて鉢合わせ。お互いの目線がピタッと合ってしまい、つい「ヤ、ヤア・・・おはよう」って、はにかみながら挨拶をしてしまいました。

 野○ソ、皆が同じ場所を選んでしまうのが課題です。

 さらに、野○ソの・・・って続きがあるのですが、オーナーズ・クラブ、格調高い車のコラムなのですから、この辺でストップ。

 ちょっと脱線が過ぎました。

 さて、ジャングルツアーの続きですが、結局ここで森林研究所のウォンさん達とお別れです。夜になってウォンさん達に迷惑をお掛けする訳にはいきませんから。

kita20304  夕闇が迫る中、ジャングルの中から豹や象、大トカゲがじっとこちらを観察していることも知らず、4台の四輪駆動車に分乗した12名とリヨンは、目的地のグアムサンに向かって夜道を出発したのでした。

 そして、夜のジャングル、大変なドライブになってしまいました。

 今回はちょっとズッコケたお話で失礼しました。北、一気にイメージ・ダウンです。

              (続く)

text by 北 | 2005.07.07 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (8) | トラックバック (0)

June 30, 2005

第2回:吸血鬼が飛んでくる

自然の真中を走る by 北

前回に続きマレーシア・ジャングルの物語を、お送りします。

kita20201  ジャングルに入って最初の下り坂で失敗。スコールにやられて3重衝突です。道というより川となった泥の坂は、皆も始めての運転ですから仕方ないのかもしれませんが、車を提供したリヨンはガックリ。運転者は顔色真っ青。同乗者も生きて日本に帰れるだろうかとビクビクです。

「皆、何落ち込んでるのよー。車、後で修理すればいいのよ。早く行きましょう。ホラ、森林研究所のウォンさん達、待ってくれてるわよ。ガンバッテ!」

 今回、ジャングルの絵を描きたいと参加した主婦の豊子さん。皆より年上のせいか、まるで子供をなだめるようにリードします。

「そうよ、崖下に落ちなきゃいいのよ」

これまた若い女子大生の美保ちゃん。何で女性ってこういう時、強くなれるのか不思議です。女性に激励され、男性達、急に目覚めたようにカラ元気を出します。

「ヨッシャー、運転交代! 俺、スキー上手だから」

「・・・エー、スキー?」

 てな感じで気を取りなおした面々、泥の道を再出発です。

熱帯雨林のスコール、30分程度で終了です。ドサーと降ってパタッとやみました。でも道はドロドロのヌメヌメ。オフロード初めての初心者達、ズルズル、キャーキャーと、時々土壁にぶつかりながらも、次第に泥の滑り方をマスターしていったのでした。

そして1時間後、泥道に慣れるにしたがって少しずつスピードが上がり、森林研究所のウォンさん達と一緒に走れるようになったのです。

熱帯雨林は、ますます深くなります。スコールを受けた森は湿度を高め、森の奥から白い霧が盛んに立ち上がっています。時々、線状の太陽光が暗緑色の森に差しこみ、樹冠の緑が鮮やかに映し出されます。そして、その緑のハイライトが雲の流れに沿って、ゆっくりとジャングルの中を流れていきました。

坂を下り、谷に入ると橋が掛かっています。丸太の橋です。太い丸太の桁に枝が並べられ、その上に砂利が敷かれています。でも、ガードレールが無いので、とってもおっかない橋です。ちょっとスリップすれば、橋から落ちて水浴びってことになってしまいます。

こういう場所では急ブレーキ、急加速は厳禁。ワダチを外さないように真直ぐに走ります。でもワダチの中、所々に木部が露出していてキックバックが生じるので、しっかりとハンドルを握ってなくてはいけません。

kita20202キックバックというのは、障害物が前輪タイヤの側面を押して、その反動で急にハンドルがグルッと回る事です。オフロードではこのキックバックが突然生じてスリップにつながりますから、ハンドルは両手で押さえ込んでおく必要があります。

  でも一つ、注意しなければならないのが親指です。親指を巻き込んでハンドルを握ってしまうと、強いキックバックが起きた際、ハンドルのスポークで親指をバシッと叩かれて関節を痛めてしまいます。ということで、オフロードでは親指を立ててハンドルの上面に乗せておきます。

古いランドローバーには、ハンドルに一周、親指を乗せる溝が付いていたのですが、今もあるのでしょうか?

森林研究所のウォンさん達が車を止めて植物をチェックしています。何やら見つけたようです。

「ウォンさん、何かありました?」

「そう、珍しい笹を見つけたのですよ」

見ると、何でもない笹です。

「採取して研究所で確認しますが・・・これ、きっと新種です」

「エー! 世界で始めて発見された笹!」

 皆、ビックリ。ジックリと眺めるのですが、どの笹も同じように見えてしまいます。

「もしかして、この笹、ウォンさんがみつけたから、ウォンさんの名前が付くのかな? デンドロ○○・ウォンフォラスとか」

「どうだろう・・・ハハハッ」

kita20203   これは大変です。皆の顔が急に変わり、一生懸命周りの竹を探し始めました。自分の名前が付く新しい笹はどこだって。・・・でも、笹、皆同じに見えてしまうので、なかなか新種発見という訳にはいきません。

「しまったなー、高校生の時もっと生物を勉強しておくんだった」

「そんなことじゃないだろーに・・・アホ

 今度はリヨンがポツンと立った葉の少ない木を指差しました。

「この木の名前、凄いんだよ・・・ミッドナイト・ホラー(真夜中の恐怖)って言うんだ」

「フーン、何でもない木なのに・・・どうして?」

「この木の天辺にとっても嫌な匂いの実がなるのだけど、その実、コウモリが大好きなんだよ。で、夜になるとこの木の周りにコウモリがギャーギャーって飛び回るんで、ミッドナイト・ホラー」

「ヒョエー、恐っかねー・・・吸血鬼が飛んでくるんだ!」

kita20204  きっとジャングルは、夜のほうが面白いのかもしれません。もう夕方、どうやらこの分だと夜のジャングルを走らなければならなくなりそうです。

熱帯雨林、真っ赤な太陽がしだいと傾き始めました。

 

 (飛んでくるコウモリは、吸血コウモリではなくフルーツ・バットという穏やかな奴だそうです)

 

        (続く)

text by 北 | 2005.06.30 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

June 23, 2005

第1回:ジャングルの赤い道

自然の真中を走る by 北

北です。オーナーズ・クラブ、再登場となりました。

前回のお話では、家族と共に楽しんだドライブを紹介しようとしたのですが、結局砂漠に迷ってしまい、タイムアウトでした。今回から新しいコラムの開始です。ジャングルや草原、砂漠の真中を走り抜けた経験を美しく?書いてみたいと思っているのですが・・・どうもいけません。やっぱり笑い話になってしまいそう。

 自然の真中へ向かって走る珍道中、楽しんでいただければ幸いです。

kita20101   ことの始まりは、キャメルトロフィー・マレーシア代表のリヨンから来た手紙でした。

マレーシア北部には、まだ人の手が入っていないピュアな熱帯雨林が残っているので一緒に行ってみないかと誘われたのです。

 マレーシアとタイの国境付近は軍によって管理されていて、民間人は軍の許可を得ないと入れないとのこと。そのジャングルへマレーシア国立森林研究所の調査に同行して侵入しようと言うのです。

 ルートは、標高1500mのペラク州キャメロンハイランドからケランタン州グアムサンまで。でも道といっても、軍が管理用にジャングルを切り開いて作った道なので、かなり大変なルートなんだそうです。

「本格的なジャングルの真中に行ってみない?」

「エッ!ジャングル・・・ヘビやトラやゾウのいる!・・・行く、行く!」

 どうも私の回りの友人達、観光地には目もくれず、こういう辺鄙なところが大好きで困ってしまいます。

なぜ困るのかって・・・結局、集まった人数が12名にもなってしまったのです。

「エー、12名も来るの・・・てっきり4〜5名かと思ってたのに」

「・・・ゴメン。酒盛りやりながら決めちゃったもんで・・・よろしく頼む」

 こういう経緯で集まった男性10名(老人1名)、女性2名の面々は晩春の日本を飛び立ち、一気に気温40度、湿度90%のマレーシア・ジャングルへと向かったのでした。

 クアラルンプールで待っていたのは、リヨンとザイーニ。キャメルトロフィー・マレーシアの代表達です。そして車は4台。ダイハツタフト2台、ラガー1台、それにザイーニのランドローバー110。でもこのローバー、ヨーロッパからユーラシア大陸を旅してマレーシアにやってきたそうで、結構古くてボロ。大丈夫かいな・・・と思っていると、リヨン、

「ランドローバーは、北が運転!」と言うのです。さらに、

「皆さーん、このローバーに荷物を入れてくださーい。この車、荷物運搬車ですから」

「何だ何だ、俺は荷物運びの運転手かー」

 なんてことをワイワイガヤガヤとやって、ジャングルの出発地キャメロンハイランドへと走り始めました。

 森林研究所のウォン氏によると、マレーシアは半島北部のタイ国境付近とボルネオに密度の濃い熱帯雨林が残っているとのこと。さらに、東南アジアの熱帯雨林は、氷河期を越えて植物が残ったので、種の数がアマゾンの熱帯雨林と比べてかなり多いのだそうです。その遺伝子をいかに未来へ残すかが大切なのだと話してくれました。

 まだ、見つかっていない種がかなりあり、その中で人知れず絶滅している種もあって、それが人類のみならず地球にとっても大きな損失だろうと静かな声で説明をしてくれました。

 早朝、避暑地キャメロンハイランドを出た一行は、紅茶畑を抜け、ジャングルへと向かいました。

 スポンジを千切ってバラ撒いたような濃緑色の樹冠がうねるように森を覆い、その緑の塊を支えるように灰色に幹が緑の中にクッキリとした縦の模様となって、森を織物のように見せています。 森の奥からは、時折、淡い霧が呼吸をしているかのように吐き出され、織物に見えるジャングルを淡いグレーに変えていました。

 森を剥ぎ取ったような1本の道が緑の狭間に続いています。その道は赤く、樹木の血が流れ出たかのような色です。

 

kita20102   その赤い道を4台の四輪駆動車がヌメヌメと走ります。大きな峠へたどり着いた時でした。突然、閃光が大地に落ちてバコーンと鳴るや、その雷鳴が森の中へこだましました。スコールです。大きな雨粒がフロントガラスにバチバチとはじけるや、一瞬に豪雨が私達を襲います。シュロの大きな葉に雨粒があたり森がバーンと唸る中、雨が道を赤い川に変えてしまいました。

 峠の先は急な下り坂になっています。そして悪い事に、その坂の右は100mの谷。もちろんガードレールはありません。さらに、スコールに煙る先を見るとリヨンが運転する先導車がこちらを向いているのです。スリップしたのでしょう。ところが2号車と3号車が既に下り坂へ入ってしまっています。

「いかん、左の土壁へ突っ込め! ブレーキをかけると谷へ落ちるぞ!」

タイヤは完全に止まっているのに、巧ちゃんの2号車が勝手に先導車へ向かって滑っていきました。ガッツーン・・・正面衝突! さらに哲ちゃんが運転する3号車もゴッチーン・・・追突!

「アチャー、やってしまったよ」

アーアと溜息。仕方ありません、最後に位置する運搬車の私達も皆のいる坂の下まで降りていく事にしました。そしてギアをローレンジの第1速に入れ、動き始めるや、助手席に乗っているユキオチャンが顔色を変えて叫びました。

「やや・・やめろー。俺は歩いてくー!」

 

kita20103  こういう泥の急斜面を下る場合は、ブレーキを掛けてタイヤをロックさせてはいけません。方法は一つ、四輪駆動トランスファーギアをローレンジ、トランスミッションを1速にしてエンジンブレーキのみで下ります。普段は誰も使わない(オマケで付いていると思われている)ローレンジの第1速、この坂下りのためにあるのです。

 でも急な泥道だと、この超低速ギアでもタイヤがすべり始めます。その時は、逆にタイヤの回転に合わせて少し加速です。そうすれば、ややスピードが出てしまいますがステアリングのコントロールができて、谷底に落ちて、サヨウナラーってことにはなりません。

「バーカーヤーローーー! 何で最初にその事を教えないんだ!」

「・・・ゴメン、哲ちゃん・・・知ってるかと思って」

「もういい! 俺は日本に帰るぞ!」

「でも・・・後ろ見てごらんよ。この坂もう登って戻ることできないぜ。進むしかないんじゃない(笑)」

「・・・()

 こうして、熱気と湿度の増した熱帯雨林の旅が始まったのでした。

                  (続く)

text by 北 | 2005.06.23 | [ 自然の真中を走る ] | 固定リンク | コメント (10) | トラックバック (0)




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